秋雨前線真っ只中の東京10月5日(火)、港区青山のフロラシオン青山へ、傘をさして出かけました。お目当ては9時半から開催の「第11回化学物質と環境円卓会議」。環境省主催の会議で、環境問題に関するリスクコミュニケーションについて行政側、産業界側、市民側の代表が、文字通り円卓を囲んで議論する、なかなか面白い企画です。
第11回を迎えるこの日のテーマは「環境ホルモン問題」。ここ数年間、社会を騒がせ続けているこの問題に、日本の各界の有識者がどのようなコメントをするか、興味を持って聴講しました。
会議はまず、国環研の森田氏と国連大学副学長の安井氏が、それぞれ25分間の話題提供。「いわゆる環境ホルモン問題は学術的には緒についたばかり。人類にはかり知れない影響を与える可能性があるので、今後もゆるめず研究を続けたい」と森田氏。対して安井氏は「環境省の発表データを見る限り、この問題は、まあたいしたことはなかったなという程度だと考える。リスクはゼロにすべしという論があるが、何事にもベネフィットとリスクとは表裏一体のもので、リスクだけゼロにしようとするとかえって別の大きなリスクを抱えることになりかねない」と力説。
引き続いての討論では、各界各氏のコメントと応酬が続きました。個々人でニュアンスの差はあるものの、エイヤッとまとめれば、「まだ発現してないものの、将来、長期的な、かつ世代を超えた悪影響が懸念される環境ホルモン問題については、徹底的な調査研究を進め、一日も早く事実を明らかにすべきである」という市民側、「不安はわかるが、リスクの大きさから言えば環境ホルモン問題が最大なのだろうか?貴重な国家資源の投入をより効果あらしめる為に、何を重点施策とするか幅広く考えるべきだ」とする産業界側、「環境ホルモン問題は今後長期に取り組むべき課題の一つ。研究資源配分も、全体のバランスを見ながら着実に進めたい」との行政側、といった所でしょうか。
なかで、私たちにとって興味深かったのは、経済産業省の某氏の発言。いわく、「リスクを気にしすぎるとかえって別のリスクを負うことになりがちである。たとえば、鉛のリスクを気にして、電線被覆材を非塩ビにする向きがあるが、代替材料は燃えやすいため、漏電等による火災が増えている可能性がある」というもの。これを受けて市民側の某氏からも、「市民団体のわれわれも、塩ビを全面排除する意見ではない。適材適所で使用すべきだという論である」と、思わぬ塩ビ擁護(?)のコメントも飛び出しました。
全体の議論を通じて感じたのは、いまや、単なる「リスクゼロ」の思想は論外であり、それぞれの課題について、ベネフィットとリスクのどの辺で折り合いをつけるかの社会的コンセンサスが求められており、そのためにもこういった幅広い構成メンバーによる意見交換の場が有益であるということでした。安井氏の資料にあった「ゼロリスクが目標の『安全ボケ』社会」というせりふは、やや強烈過ぎるものの、今の日本の現状をある意味で鋭く突いていて、共鳴感を覚えました。
この種の催しは、聞くところによると今後も定期的に続けられる由ですが、もう少し参加者の層も厚くし、より多くの人が議論に加われるようにすることも必要ではないのかな、とも感じた次第です。
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