NEW VEC MAGAZINE Vol.14
発行年月日:2004/02/26



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雑感
倉敷在住 牧野哲哉
生活バンク・FPの部屋
読者便り
コラム

雑感

倉敷在住 牧野哲哉


1、 環境問題って何だろう
 かつての公害問題は「被害が出てから」対策を考えました。現在の環境問題は「被害が出る前に」手を打とうとします。前者では、事実が先にありますが、後者は推定による行動になります。もし、その推定に誤りがあった場合、先に手を打ったことが社会に、少なからぬ打撃を与えることになります。
 私たちの社会を、環境を含めて、住み良いものにしようと、様々な分野で、それぞれ皆が努力しています。悪しかれと思う人は誰もいないと思います。しかし、神ならぬ身には過ちが無いとは言えません。ですから、何かを為す時はよくよく考えねばならないと思います。
 新年早々、1月9日に日本化学会主催、関連11団体共催の「化学イノベーションシンポジウム」が東大の安田講堂でありました。そこでは世界最先端の10人の研究者による講演がありました。私は、化学の分野に於ける国際レベルの人類社会への貢献を間近に聴き、いたく感動したものです。
 このシンポジウムで、渡辺教授が座長をされましたが、産総研化学物質リスク管理研究センターの中西センター長の講演がありました。講演の冒頭、1991年、ペルーでコレラが蔓延し、50万人が罹病、7000人が死亡した話がありました。水道水中のトリハロメタン類による発癌リスクを畏れ、塩素消毒を禁止したために起きた事件です。
 中西センター長は、この例を引いて、一つのリスクを削減するつもりでやることが、新たな別のリスクを生むから、結果的に全体のリスクを本当に小さくしているか評価しなければならないと述べています。また、最近、鉛を含みません、塩ビを使っていません、だから環境に優しい商品ですというようなコマーシャルを良く目にする。だけど、そうすることが環境保全のために本当に必要なことか、どのくらい環境に優しいのだろうか、と述べておられます。
 このように、リスク評価というのは、今あるリスクを削減するために新たにやることが、本当に全体としてリスクを減らすことになるのかどうか、検討する事だと説明されています。リスク評価というのは本当に難しい、とリスク研究の日本の第一人者である中西教授自身が述べておられます。

2、 代わりがあると思うから、やめようとえる、でも本当に代わりがあるでしょうか
 環境に悪いから○○をやめよう、と言うのは良いですが、では代わりに何を使えば良いかと探してみて、もし、代替品が無い時はどうするのでしょうか。やめよう、と言っている人は、無意識的に「代わりのものがあるはず」と思っているのが普通です。代わりが無いと解っている場合は、簡単にはやめようとは言わないものです。
 不治の病だったものが、新薬が発明され克服できた例は幾つもあります。日常的な頭痛、腹痛や肩こり等でも、良い薬が次々に出てきます。このように、ある種の化学物質(お薬は化学物質です。食べ物も私たちの身体も化学物質です)には、無限の可能性がありますので、次々と良い物を作り出せます。しかし、中には、そういう事の出来ない、または、やり難いものもあります。それは元素そのものと工業材料です。
 鉛は金属ですが、金属と言うのは、皆、元素で、合成できないものです。代わりはありません。また、工業材料、例えば、鉄鋼、セメント、ガラス、木材、といったものも、適材適所で使うもので、なかなか代わりのないものです。
 身近で解りやすい似た例を上げれば、ゴムも工業材料です。ゴムに代わりが無い事は誰でも解るでしょう。同じように、塩ビも工業材料で、圧倒的に産業分野や社会インフラの建設に使われる事の多いものです。世界中、何処でも、日本でも同じですが、塩ビの8割以上が産業分野で使われています。その需要の伸びは、世界全体で4.8%と経済成長率より常に大きいのです。中国のようにこれから伸びる開発途上の国では、社会インフラの整備が優先しますから、塩ビの伸びも大きく、過去十年間の平均の伸び率は年率14%にもなっています。

3、 「塩ビをやめよう」として失うもの
 塩ビは、我々の生活を維持するために無くてはならないものです。安心して水が飲め、暖かい部屋でテレビを見られるのも、電車やバス、新幹線や旅客機、客船を造るにも、動かすにも、塩ビが無くてはできません。家の床、壁、外壁、雨樋等、多くは塩ビが使われています。病気や怪我で病院に駆け込んだ時、先ずお世話になるのは塩ビの医療器具です。それよりも、最も高度に衛生性を保たねばならない手術室の床、壁は塩ビが使われています。携帯電話やパソコンの重要部品であるICチップを造るクリーンルームも塩ビです。そこで使う超純水の製造装置やパイプラインも塩ビです。
 今、一部の企業では、塩ビを他の材料に替えようとしています。こんな状況は日本だけですが、塩ビ代替材料のほとんどが、塩ビより性能が劣り、しかも、資源エネルギー消費や環境負荷の大きいものです。こんなものが環境に優しいはずがありません。無意味で無駄な事と思います。代替材料開発に費やされている人的、経済的な損失も大きいと思います。
 塩ビは最もリサイクルしやすく、実際されていました。多くの零細企業の皆さんに支えられていました。それが、今も続けている人は僅かで、廃業されてしまいました。
心無い、無理解な塩ビ排斥のために、職を失った人たちがある事を知っておいて下さい。
生活バンク・FPの部屋

ファイナンシャルプランナ−(略FP)、長谷部和子
『閑話休題 1』

 塩ビ工業・環境協会の広報担当コンサルタントとなって1年余になります。塩ビをはじめプラスチックとは何ですか?という基礎的な事を、大学生や一般市民に理解して頂くセミナ−を企画担当しました。
15年度は5〜6月に法政大学経済学部で「プラスチックからグリ−ンプロダクツを考える」11〜12月には慶應大学理工学部大学院で「プラスチックから環境を考える」をテ−マに公開セミナ−を開催しました。
 そこで、今回は参加した学生の感想文の一部を掲載し、セミナ−を通して学生がプラスチックを含めた環境問題をどう捉えたかの一端を紹介します。

●個人名や大学名を記載しません。
修士課程1年生
 最近、われわれの生活において、プラスチックはその利便性ゆえにますます多く見られるようになってきました。しかし、このプラスチックは処理が非常に大変ということは聞いていました。何にしても、利便性を追求すればそれなりの代償を払わなければいけない、ということは言えるかもしれませんが、その代償が地球環境の破壊、というように結局自分たちの生活環境を最終的には壊してしまうということを考えなければいけないと思います。下手をすれば、われらが地球に住めなくなる、という最悪の事態になってしまうことにもなりかねません。
 このセミナーでは企業の方々が、自分の思っている以上にと言ったら失礼かもしれませんが、環境に対して真剣に取り組んでいると思いました。やはり、こういうことに関しては本当にすごいと思いました。自分は口では先にも述べたとおり言っているだけで、実際には、ペットボトルなどは適当に捨ててしまったりしていたことを非常に反省をしたりもしました。このように、一企業、一個人だけが取り組むのではなく、皆がきちんと取り組むような社会にしていかなければいけないと思いました。

学部4年生
 今回、数回にわたってセミナーを聴講して、プラスチックに関する大学の研究だけでなく、企業の取り組みも紹介されていて、とても興味深く拝聴させていただきました。特に、企業の取り組みは、そのまま企業イメージに直結するだけあって実用的な話題が多く、今後の廃プラスチック資源の再利用方法を垣間見ることができたと思います。また、講演者の方々との質疑応答やディスカッションも、私とは違ったさまざまな立場の方々が持っている意見を幅広く聞くことができ、現代において話題になることの多いプラスチックと私たちの生活との関わりを多方面から見る良い機会でした。

学部4年生
 プラスチックは非常に便利な物質であり広く普及している反面、その処分について多くの問題が山積しています。私は処分問題について考えると、ついつい「作ったものをどう処分するか」という考えかたをしてしまうが、自然素材を使ったりなどして「作る側」を変えていくという話を聞き、解決の仕方にも色々あると思いました。企業の努力を知ることができ、私自身も以前よりプラスチックについての関心が高まりました。
 今回のセミナーのようにプラスチックについて考える機会があると、世間や企業の関心も高まり、より研究が進むと思うので、有意義な機会だったと思います。 次回に続く

読者便り
Q: 塩化ビニル樹脂(ポリマー)に関する米国、欧州及び日本における規制について教えてください。(東京 製造メーカー Oさん)

Aの1:

米国、欧州及び日本において、国家レベルで「塩化ビニル樹脂(以下、塩ビ)そのもの」の製造・販売・使用を禁止または規制している国はありません。
過去において、スイスが1990年に飲料水用の塩ビ製ボトルを使用禁止にしたのが唯一の事例ですが、スイス環境庁は1998年8月、この規制措置を撤廃しました。
1990年の規制措置の理由は、他の樹脂(この場合はPETボトル)のリサイクルを推進する必要から塩ビ製ボトルの混入をなくすための措置でしたが、その後プラスチック分別技術が進歩したこと、及び、多くの科学的研究によって塩ビに対する懸念事項が解消されたことから、規制する正当な理由がなくなったことが規制撤廃の理由です。

欧州の国では、一部の地方自治体が特定の環境団体の主張を政治的に利用する形で、塩ビの使用を規制した例がありました。例えば、ドイツのビールフェルト市は1987年、建築資材としての塩ビ使用を禁止しましたが、1994年にはこの禁止措置は撤廃しました。その理由は、塩ビ製建築資材が長期間使用されることから環境面での利点が再評価されたこと、塩ビ業界が使用済み塩ビ製品のリサイクルに取組んだこと、そして何よりも特定の環境団体の反塩ビ主張が誤った科学的データに基づくことが理解されたこと等によると考えます。なお、欧州各国の地方自治体での塩ビ製品に対する政策がその後どうなっているかは、調査中ですので、いずれ情報提供の機会を持ちたいと思います。


Aの2:

「塩化ビニル樹脂に特定の可塑剤を配合した製品」に対して、    欧州及び日本に規制措置があります。
欧州(EC)は1999年、フタレート系可塑剤を含むおもちゃ及び3才未満の小児が使用する歯固め等の小児用口腔内使用製品についての販売を暫定的に禁止する措置をとりました。フタレート系可塑剤がネズミ類での動物試験で生殖毒性を示す作用から小児に影響を及ぼす疑いがある、との理由によっています。ECの一般製品の安全性に関するルールにより、この禁止措置は恒久的なものではなく、3ヶ月間の暫定的禁止措置でした。暫定的とされた理由は、おもちゃ等から人体への可塑剤移行量試験方法が確立されていないことから、となっています。
この規制は3ヶ月毎の延長措置が許されています。ECは2003年12月に第16回目の延長措置を決定しました。小児健康に対して継続的に高いレベルで保護し続ける必要がある一方、フタレート系可塑剤の移行性テスト結果とリスクアセスメント結果の評価のためにはさらに時間を必要とする、との理由からの禁止延長措置です。

一方日本では、2002年8月から食品衛生法により、乳幼児(6才未満)が接触する可能性があるフタレート系可塑剤(DEHP及びDINP)を含む塩ビ製「おもちゃ」、及び、DEHPを含む脂肪又は脂肪性食品に接触する「器具又は容器包装」用塩ビ製品の使用が禁止されました。(DEHP:フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、DINP:フタル酸ジイソノニル)
厚生労働省はDEHPを使用規制に踏切った根拠として、げっ歯類(ラット、マウス)に対する精巣毒性試験(Poonら)と生殖毒性試験(Lambら)の結果をあげています。
特に、Poonのデータ(耐容一日摂取量TDI:40ug/kg/day)を採用した場合、暴露量に勘案すればリスクを受ける可能性が高いというものです。ところが、2002年に発表された2世代試験(Schillingら)の結果ではTDIは1130ug/kg/dayとなり、Poonの結果より約30倍高い値(安全サイド)が得られています。また、2003年の米国学会でも同様の試験結果(Wolfeら)が発表されています。EUにおけるフタレート系可塑剤のリスクアセスメントの評価過程において、PoonよりSchillingのデータを採用すべきであるとする国が多数を占めています。日本の規制措置においても、「安全性の評価においては、最新の試験結果を考慮すべき」と考えます。また、使用禁止措置がECの3ヶ月禁止ではなく恒久的な措置となっていることも理解し難いことです。
これに関する詳細情報は、可塑剤工業会のホームページを参照下さい。
可塑剤工業会 http://www.kasozai.gr.jp


Aの3:

EU76/769指令について
なお、2003年5月にEUはCMR物質(発ガン性、変異原性、生殖毒性があるとされる物質)41種類の一般消費者への販売を制限する指令(「特定の危険物・薬剤の流通と使用に関する指令」)を公布しました。この41種の中にDEHP及びDBP(フタル酸ジブチル)がげっ歯類における生殖毒性データを根拠にして入っていますが、この指令は、一般消費者を化学物質から保護するために一般消費者への直接販売を制限したものであり、通常の取引き(加工メーカーへの販売)を規制したものではありませんし、加工された製品に及ぶものではありません。
これに関しても上記の可塑剤工業会ホームページをご参照下さい。


☆読者便りは、VECホームページのお問い合わせから構成されています。
 ご意見・ご質問をお待ちしております。

VEC関連URL
●VEC 塩ビジュニア https://www.vec.gr.jp/kids/index.html
●塩化ビニル環境対策協議会 http://www.pvc.or.jp/
●プラスチック・サイディング http://www.psiding.jp/
●樹脂サッシ普及促進委員会 http://www.jmado.jp/
●メールマガジンバックナンバー https://www.vec.gr.jp/mag/index.html

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