サブプライムローンの焦げ付きに始まって、住宅ローン会社やヘッジファンドの破綻、そして短期金融の収縮など、アメリカ発のサブプライムショックが世界中に連鎖しています。日本では8月17日には日経平均が2000年4月のITバブル崩壊時以降で最大の下落を演じました。焦げ付き自体はローン全体の1%にすぎず、各国の中央銀行による流動性の供給もあって足元は小康状態にあるものの、いまだ予断を許さない状況です。
震源地のアメリカの新築住宅は、7月度着工件数が年率138.1万戸で前月比▲6.1%、前年同月比が▲20.1%、先行指数である7月の着工許可件数も前月比▲2.8%の減少となりました。また中古市場の6月販売戸数は前年同月比▲11.4%の年率575万戸で、2002年以来の低水準となっています。米連邦準備制度理事会(FRB)が8月17日に「成長の下振れリスクがかなり高まった」と声明したように、個人消費への影響も懸念され始めています。アメリカのGDPの65%を占める個人消費が沈下した場合、アメリカの実体経済だけではなく、中国や日本、新興諸国でも波乱が生じかねません。
これらの懸念の発端となったサブプライムローンですが、通常のプライムローンを借りることが出来ない移民や低所得層を対象に1990年代から始まった制度です。米国の住宅ローン残高10兆ドル(約1150兆円、日本の約6倍)の10%、件数では15%であり、日本と違って銀行ではなく、民間のローン会社がプライムローンより数%高い金利で融資します。ローン会社は個人の抵当ローン(mortgage loan)を束ねて証券化します。国際通貨基金(IMF)によれば、全米の住宅ローン10兆ドルのうち、その6割の6兆ドルが証券化され、ヘッジファンドをふくむ世界中の投資機関に販売されています。しかし余りに分散性が高いため、ヘッジファンド等がサブプライムローン証券をどの程度に組み入れているか、投資銀行にとって分かりにくい状況があります。そこで現在、延滞という借り手の問題よりは、ローン会社の審査、格付け機関による証券評価という貸し手側の金融システムの問題の方で洗い直しが進められています。
それはさておき、サブプライムローンやプライムローンの借り手である消費者は大変な苦境にあることでしょう。彼らには、住宅価格が上昇したらその分を担保にして、低利のローンに借り替えできるという期待が高かったようです。ところがそれとは裏腹に2006年から住宅価格が下落し、加えて、グリーンスパン前FRB議長の12回に及んだ政策金利の連続的な引き上げ(現在、5.25%)でローン金利が急上昇したため、余儀なき延滞が増加し始めました。
ここで忘れてはいけないことは、サブプライムやプライムローンといった金融制度によって、低所得者をふくむ広範な層が、まずまずの広さとバスや断熱サッシを備えた温熱環境の良好な住宅を購入でき、これを産業側も支えてきたという歴史です。塩ビの立場で言えば、断熱サッシやサイディング開発と普及です。中古を含めて年間800万戸のアメリカでは2×4住宅が一般的ですが、その外壁に厚さ2ミリ弱の塩ビサイディング(羽目板)、窓には塩ビサッシが使用されています。この二つで年150万トン、なんと日本での塩ビ消費量に匹敵し、アメリカの塩ビの約25%となります。デザイン、難燃性、メンテナンスフリー、材工費の安価さに加え、断熱性が高くCO2の排出削減に直結し、地球温暖化の抑制に貢献しているため、カリフォルニア州などではエネルギースターマークが付与されています。
米国では、2050年には現在の3億人が4億人になるだろうと推測されています。1年に200万人が増加する計算ですが、4人に一軒としても年間50万軒が、新築か中古リフォームとして必要になります。当然、建設において省資源、住んでみて快適、省エネルギーで保有コストも低く、リーズナブルな価格の「良質な住宅」が今後もニーズです。
翻って日本ですが、住宅の省エネルギー基準が欧米より低いままですし、太陽光発電や樹脂サッシの購入でNEDOや環境省の助成措置が拡大されてきましたが、まだ部分的な措置にとどまっています。アメリカとは人口動態が異なり、人口増による経済効果は日本では期待できません。ということは、世界トップクラスの住環境を目指すような、質で勝負する内需喚起が必要なのではないでしょうか。京都議定書の公約達成のためにも、「地球と消費者にやさしい住宅政策」が望まれる所以です。(了) |
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