NO.151
発行年月日:2007/11/01

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トピックス
◇業界初!耐火性能をもつ建物排水・通気用塩ビ管
 − 耐火VPパイプ、耐火DV継手 −
積水化学工業株式会社 環境・ライフラインカンパニー
給排水システム事業部 技術・開発室 岡部優志

随想

信念がある分野は科学にならない(連載10)

国際連合大学 上野 潔

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編集後記

トピックス
◇業界初!耐火性能をもつ建物排水・通気用塩ビ管
 − 耐火VPパイプ、耐火DV継手 −
積水化学工業株式会社 環境・ライフラインカンパニー
給排水システム事業部 技術・開発室 岡部優志

 「業界初!耐火性能をもつ建物排水・通気用塩ビ管」とのキャッチフレーズで、この10月に耐火VPパイプ(FS−VP)、耐火DV継手(FS−DV)を発売しました。建物には、火災時の延焼を防止するため、床、壁を耐火構造にし、防火区画として用いていますが、この防火区画を貫通する配管においても、区画と同等の耐火性能が要求されます。このため従来は金属管や、塩ビ管をモルタルで被覆した複合管などが用いられていました。「我々のプラスチック材料・成形技術でもっとシンプルな耐火管材ができないか?」との大きな命題を掲げ、オールプラ耐火管材への挑戦を始めました。

 ここでベースのプラスチックとして選んだのが塩ビ。排水・通気管として長年の実績を持つばかりでなく、「そもそも燃えにくい自己消火性プラスチック」ということが決定要因でした。しかしながら、塩ビをほとんど燃えない材料にすること(不燃材料とすること)は、プラスチックである限り非常に困難です。所定の耐火性能を発揮させるポイントとしては、防火区画を貫通する配管の内径が大きいほど、炎や熱、煙などが伝わりやすくなるため、管の内側空洞をできるだけ小さくし、火炎にさらされても簡単に脱落したり形状を変えたりさせないことです。この機能を配管自体に盛り込ませたのです。約200℃以上で100倍ほどに体積が膨らみ断熱耐火層構造を形成する「高温膨張材」を塩ビに一定の割合で配合。火災時の高温条件下で、塩ビが軟化し、徐々に燃焼炭化しながら、高温膨張材が膨張を開始、管の内面方向に塩ビ層全体が膨らみ、結果として管の空洞部分断面積を小さくし、炎や熱などの伝達を抑制します。ここに、プラスチック管自体で、耐火性能を発揮できるシーズ技術が生まれたのでした。

 ただし、この耐火性塩ビプラスチック配合は、従来の塩ビと比較して、強度や耐衝撃性が低下します。排水・通気管として、安心して使用していただくには、機械強度の向上が必須となります。ここで、機能を分離して管の層構造を設計、耐火性塩ビを中間層に、内外層にはVP管で使用されている通常の塩ビを配置し、三層のサンドイッチ構造にすることで、耐火性と機械強度の両立を図ろうと考えました。耐火性能を損なわずに、機械強度をどこまで向上できるか?試行錯誤の挑戦が続きました。数重なる検討の結果、塩ビ管のJIS規格性能を満足した最終設計品で、所望の耐火性能に目処がつきました。内外層に通常の塩ビを用いることで、接着接合も可能で、排水に対する管内面接液部も長期の実績に裏付けられた安心感も併せ持つことができました。また継手は単層構造で独自の燃焼を抑制する配合を採用。パイプと継手セットで用いることで安定した耐火性能を発揮し、ついに、公的耐火試験に合格、「業界初の耐火性能をもつ建物排水・通気用塩ビ管」が誕生したのでした。

 塩ビ管(VP、VU)は、当社においても、優れた施工性、耐食性を発揮する管材として、1952年より生産を開始。上水管、下水管、電線管として、幅広く用いられるようになりました。塩ビを塩素化し、耐熱性をもたせることにより、給湯配管(HT)へ適用したり、塩ビにゴム成分を配合することで、耐衝撃性能を飛躍的に向上させた耐衝撃性水道用塩ビ管(HI)など、塩ビは世の中のニーズに合わせて、進化を続けてきました。今回の耐火VPパイプも塩ビ管にとって次の柱になりうる大きな革新であると信じております。これからもニーズを反映し、塩ビがますます進化(アドバンス)し、われわれもアドバンスし続けていきたいと考えます。(了)

耐火VPパイプ(FS−VP)、耐火DV継手(FS−DV)
プレスリリース:http://www.eslontimes.com/system/contents/entry/121/
エスロンホームページ:http://i-front.sekisui.co.jp/kanzai/index.html

随想
信念がある分野は科学にならない(連載10)
国際連合大学 上野 潔

 信念(Faith to believe, conviction)は尊い言葉です。ある環境NPOの幹部に、「なぜ塩ビ廃絶運動を続けるのですか?」と質問しました。
 「それは信念だからです」との答えでした。確かにガリレオもダーウインも野口英世も信念の人だったから、分野も時代も異なるけれど伝記に書かれるほどの「偉人」だったのだと思います。しかし真実がわかっても誤りを信じ続け、他人に強要することはもはや信念ではなく妄信になると思います。ガリレオの地動説も妄信といって非難されました。普通の感覚からは天動説のほうが正しいと思うでしょう。(私も太陽が地球の周りを回っていると見るのが日常の観察からは自然だと思います)
 信念を変えることはしばしば難しいときもあります。古来、改宗したり主義や主君を代えたりすると変節、転向といって非難されました。しかし現代においては、新たな真実をその時点で受け入れ、訂正する勇気こそが科学に対する信念といってよいのではないでしょうか?

 環境のように答えがすぐに出ない分野においては、なおさら多様な現象を理解する力が必要だと思います。あらゆる物質、特に化学製品には何らかの環境負荷があるのです。それを認めその便益を上手く利用することが文明化された我々の生き方ではないでしょうか?人類が古くから利用してきた鉛も砒素も水銀も全て有用な材料です。それらを利用して先祖は高度の文明を築いてきたのだと思います。プラスチックもその中のひとつだと思います。多くの矛盾する環境負荷を定量的に表現する手法の一つにLCA;Life Cycle Assessmentがあります。LCAはどんな物質も環境負荷を及ぼすことを示すので壮大なネガティブ情報ともいえます。ネガティブ情報を知った上で利用するには、高度の科学知識と正確なデータそして物質を制御できる社会システムが必要です。

 信念を公式に変えた事例としてDDTについてのWHOの方針転換(2006年9月15日)があります。この部分は中西準子先生のHP雑感377−2007.2.6「WHOの方針転換(DDT問題)」からの引用です。
http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/

 【06年9月15日のWHOアナウンス】
 DDTの広範な使用が禁止されてからほぼ30年経過して、WHOはマラリアをなくすために、DDTの室内残留性噴霧(IRS)を奨励するという方針を公表した。IRSとは、屋内の壁面に殺虫剤をスプレーするという方法で、即効性がある。(中略)IRSは費用も低く、適切に使用すれば、健康リスクはない。1980年代初期までWHOは熱心にこの普及に努めてきたが、人の健康や環境影響が大きいと言う声が上がり、この使用を止め、他の方法を検討した。しかし、その後の精力的な研究、調査でIRSは人に対しても、環境に対しても害はないとの結論に達した。・・・以下略
 【問:マラリヤ制御のためのDDTの使用は、なぜこれほど議論になるのか?】
 DDTが残留性、残存性の高い物質だから。殺虫剤として散布してから、環境中で12年も残留する。この間、DDTと代謝物は食物鎖に入り、脂肪組織に蓄積する。野生生物でのいくつかの有害影響がDDTによるものだった。鳥類の卵殻が薄くなるのもその影響である。また、DDTが人健康に慢性的な影響を与えるという畏れもあった。しかし、現在までのところDDTと人健康影響との間の直接的な関係はないが、これが生殖機能や内分泌系の機能に影響を与えるかもしれないという証拠は増えつつある。DDTの使用に反対する人々は、この理由で使用を抑制すべきと主張している。


 DDTは終戦直後の日本の衛生状態を改善し多くの人命を救ったにもかかわらず、その後、環境保全のために「おぞましい物質」として使用が禁止された典型的な事例だと思います。もちろんこの信念変更の事例でも、多くのデータと知見によって無制限の使用ではなく「制御可能な使用」を前提にしています。今後も同様の事例が増えることを期待します。

 残念ながら途上国の一部の地域では、塩ビ電線を「野焼き」にして手軽に銅だけを回収している事例がまだ存在するようです。不適正な廃棄時の処理方法は、環境負荷を高めるだけでなく貴重な塩ビリサイクルの機会をも奪っているのです。
 これらの事例は塩ビ根絶の信念を持った人々を勇気付けるだけでなく、塩ビを使用しない製品を環境配慮製品として評価する一部のNPOの主張をも助けています。塩ビが通常のプラスチックに比べて半分の石油しか使用していないことや、優れた断熱効果で省エネルギーに役立っていることなどはこれまでも塩ビ業界の冊子で公開されていますが、残念ながら 「塩ビ根絶の信念を持った人々