NEW VEC MAGAZINE Vol.17
発行年月日:2004/05/27



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コラム
リスクについて感じたこと
                          信越化学工業 酒井清次
わかってほしいなあ
日本化学工業協会 鳥居圭市
環境バンク・セミナ−報告
読者便り
コラム

リスクについて感じたこと

信越化学工業 酒井清次

このところリスクについての論議を良く見るが、化学品のリスクについては私たちの生活の中にあるいろいろのリスクとは違う、なにか特別なリスクのように思ってしまう向きがあるのではなかろうか。
当たり前のことだが、リスクだけがあって必要性に乏しい物質や道具があるわけではないけれど、そのリスクとべネフィットのバランスの説明が少ないと思うし、見えにくいリスク、起きた場合の影響が想像しにくいリスクは恐ろしさを煽りたてられ易い。
リスクの定義は兎も角、ハザード(毒性の強さ)と曝露とを掛け合わせて、起きたときの重篤さと起きる確率を掛け合わせて などとリスクの考えには確率が入ってくるのでなんだか難しい。
毎日TVで報道される天気予報の降水確率にはようやく慣れてきたが、化学品のリスク評価の確率にはまだ慣れていないヒトも多いだろうし、特に黒白を決め付けるような議論になれている人はゼロリスク症候群になりやすいようだ。

最近、朝日新聞にBSE(Bovine Spongiform Encephalopathy/狂牛病)のヒトへのリスクに関する連載が出ていたが、低リスクの確保と消費者の安心を目指すことでは共通するものの、さまざまのお立場の方々の考え方がうかがわれて面白い。
限られた発症の情報の中で科学的な判断をし、関係者の理解を深めなければならないが、危険部位除去の徹底などの安全対策を採ってリスクは低くなっている、その上に日本で行われている全頭検査によるリスク削減の効果向上はどうか、そのための対策費用とのバランスをどう考えるかが指摘されている。
消費者の安心を得るには確率的なリスクの説明のほかにもっと工夫がいるようだ。

塩ビ製品の市場に大きなダメージをもたらしたダイオキシンや環境ホルモンの話題も、多くの方々のご努力のおかげで、時間の経過とともに、科学的な理解が進んできた。
所沢のダイオキシン騒ぎも最高裁判決でようやく常識的になってきた。
ダイオキシンも調査結果を見るとヒトの健康に対する影響を心配するほどの被爆をしていないし、事故のような特殊な暴露を想定する外には現実的な心配はなくなった。
スピード'98で疑いのある物質をリストアップして以来、騒がれてきたフタル酸系可塑剤(DEHP)も環境ホルモンではなかったことを環境省自身が認めた。
一般毒性の問題であれば、すべての化学物質(天然も人工も、よく知られているものも初めてのものも)共通の問題で、これまでの取り組み方でよいだろう。
大きな船の舵が利きにくいように、正しい方向への軌道修正が未だ進んでいないところもあるが、関係者のご努力が稔ることを期待したい。

当然のことだが、私たちも世に提供している塩ビ製品のリスクには責任があり、塩ビ製品に用いられる添加剤のリスクについては勉強している。
例えば、添加剤に起因する金属などの水中への溶出を、一部の製品や基礎的な配合のモデルシートを用いてテストしたが、軟質・硬質ともに添加剤の溶出は非常に少なく、リスクの評価上は問題のないことが分かっている。
通常の使用条件の中では、配合物からの溶出についてはきちんとテストすれば各種の製品/成型物の安全性が証明できると思う。
リスクに対する考え方がシビァさを増す中で、添加剤の使用についてもより一層安全性の高い方向へ改善の努力が進んでいる。

塩ビ製品もそうだが、一般に原料となる成分など安全に関する情報の開示は取引の中で普通に行われており、ビジネスの中では特には困ることはない。
ただ、基礎的な素材からいくつもの工程を経て最終製品になる場合には、上流側の情報が最終的な使用者の手に行くまでには、段階が多すぎて十分には伝わり難いこともあったと思うが、最近では各業界でホームページなど利用して公開の動きも進んできている。
必要に応じてリスク関連の情報が最終製品の段階に伝わるような仕組みづくりも必要であろう。

塩ビは、ごく普通の工業用素材であり、科学的に理解され、判断されて、ベネフィットのあるところに使用されれば良いので、要はリサイクルなども含めて合理的な製品設計がなされ、使用されるようにという問題であり、たとえは悪いが、すべての材料は「バカと鋏は使いよう」のようなもので、優れた特性を発揮して社会にベネフィットをもたらせるよう、合理的に利用してほしいと思っている。




わかってほしいなあ

日本化学工業協会 鳥居圭市

 某化学会社から日本化学工業協会(日化協)という団体に移って何年かになります。化学会社はれっきとした「製造業」ですが、日化協、就中その事務局は「サービス業」ということを時々実感します。「もの」は作っていないし販売もしていない。やっていることは会員(化学メ−カ−を中心に商社や化学関係の団体等約280会員で構成される。スポンサーでもある)のために情報を集めたり、議論の場を提供したり、いろんな利害関係者(政府、化学製品のユーザー、消費者、いわゆるNGO、アカデミー、マスメディア等々)の方々と意見交換あるいは主張をしたりというところでしょうか。

社会生活の大半を過ごした化学会社が好きですし、ここが社会に貢献して存在感を認められ、同時にしっかり儲けて貰いたいが故に協会事務局員として毎日働いていると言ったらきれい事すぎるでしょうか。
 サービス業たるもの、「スポンサー等の相手から対価を頂くに値するサービスを如何に提供できるか」が大切で、これ以外に存在価値はないでしょう。サ−ビスの中でも重要でかつ難しいのが「わかって貰う」ことではないでしょうか。

「私は言った」と、「あの人にわかって貰った」の間にはすごい距離があることを感じます。しかも「言うあるいは書く」相手は実に様々で、必ずしも「わかりのよい」人たちではありません。「塩ビは発ガン性があってよくない」とか「塩ビはダイオキシンのもとである」(注:ある条件の下では事実だが、その条件を外す対策が既にとられている)とか気楽に言われる人たちが、実は塩ビ製品に囲まれて快適な生活を享受していることに気がついていないし、言われても認めようとしない人たちが多いのも事実でしょう。あるいは本当は分かっているのに立場上わざと塩ビ悪者論を振りかざす向きもあるようです。
 そういう現実があっても、私たちサービス業者はスポンサーのために「わかって貰う」ための努力を求められているのです。

「相手」と「事態」に応じて目標を定め、時には露骨に立場を鮮明にし、時には相手のペースにあえて乗って辛抱強く対応するというのは言うのは簡単でも実際は大変な困難を伴うものですよね。まあ共通的に大切なことは、「事実関係を如何に素直に把握するか」、「そのために必要な知見を得やすい環境作り(関係組織、人脈、インターネット等のアンテナを高く張り続けることでもあるでしょう)」そしてさらに「それらを相手にわかって貰う」ことができれば理想でしょうね。いろいろ努力してみるものの相手の頑固さ、居丈高さ、知識レベルの違い等からこちらがいらいらしたり諦めたりすることが結構ありますがこれではサービス業失格なのでしょうね。

それにしても化学産業を取り巻く利害関係者の多いこと。
1970年代に多く起こった公害、大事故発生時の痛い反省から化学業界が膨大な環境投資をし、地域社会の人たちと理解し合って事業を継続しようとしている努力を「わかってほしいなあ」。


■環境バンク・セミナ−報告

FP&環境システムプロデュ−サ−・長谷部和子
前回に引き続き、4月17日セミナ−後半をお届け致します。
田中教授の大気汚染に関する調査結果は、大変興味深くかつ深刻な現象の報告です。

第1回4月17日後半・田中 茂教授(大学院開放環境科学専攻)

“身近な地球環境問題を考える”
日本近海の離島、船舶における大気観測による越境大気汚染の実態


 近年、世界的規模でのエネルギー消費の拡大に伴い大気汚染物質の放出も増加し、その大気環境に与える影響は、1国にとどまらず地球環境問題となってきた。特に、東アジア地域においては、経済発展の著しい中国から膨大な大気汚染物質が偏西風によって日本近海にかけて輸送されていることが明らかとなってきた。
 環境化学研究室では、科学技術庁戦略的基礎研究の一環として、1996〜2000年の期間に、東京大学、大阪府立大学、国立環境研究所と共同で日本近海の離島の沖縄、隠岐、利尻、海洋調査船“白鳳丸”、“みらい”において大気観測を行い、大気粉塵中の化学成分の測定を行ってきた。

 非海塩性硫酸塩(nss-SO42-)に関しては、沖縄の場合、気塊がSouth- China(4.25μg/m3)とNorth-China(3.74μg/m3)を通過してきた場合に日本の主要都市大気中の非海塩性硫酸塩濃度に匹敵する高濃度となり、中国から長距離輸送されてくることが判った。

 沖縄と隠岐でのセクタ区分別の非海塩性硫酸塩濃度の観測結果から、大気中硫黄化合物の約50%が中国大陸起源であることが判り、大気汚染物質の越境汚染の実態が明らかとなった。

首都圏のネットワーク観測による降水中化学成分に及ぼす三宅島火山噴火の影響

三宅島火山では2000年7月より噴火が始まり、2000年9月から火山ガス放出が活発となった。特に火山性SO2ガスの放出総量は1年間で1500万トン(2000年9月〜2001年8月)と報告されており、日本での人為的なSO2排出量(約66万トン/年)と比較すると約23倍に相当し、莫大である。そのため、三宅島から約150km北に位置する首都圏にも火山噴火の影響が及ぶことが懸念された。SO2ガスはそれ自体有害な大気汚染物質であるが、同時に酸性雨の原因物質でもある。

 そこで、当研究室で1990年から約12年間にわたり継続して行ってきた首都圏酸性雨ネットワーク観測結果を利用して、首都圏の降水に対する火山性SO2ガスの影響を定量的に評価した。
 三宅島火山噴火が首都圏の降水に対してどのような影響を与えたのかを探るため、噴火1年目(2000年9月〜2001年8月)および噴火2年目(2001年9月〜2002年8月)の各観測地点での降水中化学成分濃度を、噴火以前10ヵ年(1990年9月〜2000年8月)と比較した。

 その結果、噴火以前10ヵ年における降水のpHの平均値は4.5前後であったのに対し、噴火1年目はpH4.1台と非常に低い月が複数出現した。一方、噴火2年目の降水のpHは、噴火以前10ヵ年のpH範囲内を推移した。

 次に、噴火以前10ヵ年よりpHが低かった噴火1年目に対して、降水中に含まれる他の化学成分濃度についても比較したところ、非海塩性硫酸塩濃度(nss:non sea salt、非海塩起源)のみが噴火以前10ヵ年に比べて高く、統計的に有意な差が認められた(有意水準5%)。

 以上により、噴火1年目は降水中H+および非海塩性硫酸塩濃度が上昇し、火山噴火の影響が大きかったことが判った。
詳細リポ−トは此方から

http://www.env-center.com/report/report_ja.html


読者便り
Q: プラスチック加工業  品管部 Kさん(愛知)
時計メーカー製品の中で、可塑剤入りの塩ビ製の腕時計バンドを装着したものがあります。生産停止による希少価値やデザインの面白さから、収集趣味の対象となっており、当社はコレクター向けにポリスチレン(PS)でウオッチケースをつくって居ます。
ところで「腕時計の塩ビ製バンドがウオッチケースのPSと接触して、せっかく集めたコレクションが傷むのではないか」との問合せがあり、どのような返事をしたらよいか困っています。

A:

1. パソコンの筐体やキーボードなどの製品は、PSやABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)で作られていますが、これらが軟質塩ビと高温・長時間で接触した場合、PSやABSの中のスチレン分が塩ビ中の可塑剤となじみ、PS製品に可塑剤が移行し、ベトッとしたり表面荒れを起こし、塩ビ側の表面も微妙に湿ったりします。
しかし、短期間・常温であれば実用上の問題はなく、また個人差を配慮しても人間の感性が問題にするレベルにありません。
2. 貴社のウオッチケースでも同様で、夏場の車の中など、高温・長時間にわたり放置しないように注意すべきです。日曜雑貨によく「火元や高温に近づけないように」という注意書きがあるのと同様です。
3. 万が一の移行の心配な塩ビ製品には、DEHPなどフタル酸系の可塑剤を使わず、特殊なタイプの高分子型の可塑剤(非移行性の可塑剤)を用いたり、表面処理材が塗布されたりしています。
これは今に始まったことではなく、オーディオケーブルや自動車部品、壁紙、文房具などの塩ビ製品で昔から行われてきました。こうやって塩ビ製品が使われ続けてきたのは、その耐久性・デザイン性・低価格にあります。貴社ウオッチケースも塩ビで検討いただければ幸いです。

☆読者便りは、VECホームページのお問い合わせから構成されています。
 ご意見・ご質問をお待ちしております。


VEC関連URL
●VEC 塩ビジュニア https://www.vec.gr.jp/kids/index.html
●塩化ビニル環境対策協議会 http://www.pvc.or.jp/
●プラスチック・サイディング http://www.psiding.jp/
●樹脂サッシ普及促進委員会 http://www.jmado.jp/
●メールマガジンバックナンバー https://www.vec.gr.jp/mag/index.html

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