NO.190
発行年月日:2008/08/28

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トピックス
◇外壁、サッシの塩害 −伊豆大島の実情−
一級建築士 高村正彦

随想
28℃の偽善(連載19)
国際連合大学 上野 潔

編集後記

トピックス
◇外壁、サッシの塩害 −伊豆大島の実情−
一級建築士 高村正彦

 大学を卒業してもう27年あまりが経過した。大学ではコンクリートを専攻し、卒研もそれをしていたはずなのだが、卒業と同時にゼネコンと言われるところに就職して現場監督・建設営業と言う過程の中で目の前の仕事のことばかりで、コンクリートの問題点などすっかり忘れていた。ここに来なければ一生思い出すことの無かったことだろう。

 鉄筋コンクリート造においては、コンクリートの中性化が長寿命化の最大のネックとなっている。これは強アルカリ性であるセメントが大気や酸性雨などの要因により中性化し、それが進み酸性化してしまうことにより本来の強度が失われ建築物の短命化につながる現象である。沿岸地域においては塩害がプラスされ、より一層建物を短命化させている。それは木造や鉄骨においても同じことである。外装材を手入れしないでほっておくと、他の部分がどんどん悪くなって行く。
 人体に例えれば皮膚が外装材、肉が壁、骨が柱・梁、内臓が内装や設備機器である。風邪は万病の元といって、ちょっとした体調不良がきっかけで重い病気になってしまい、ついには死にいたってしまうことがあるように、建物も外部に病巣が出来て放っておくと、内部に侵攻し全てを破壊し死に追いやってしまうのである。

 今回、船で1時間45分、飛行機で30分と手軽に調査が出来、火山性ガスや塩害など過酷な条件下で病気が進んでいるであろう伊豆大島にターゲットを絞り調査してみることにした。
 伊豆大島は伊豆諸島北部に位置し伊豆諸島最大の島で、面積91.06km人口8952人世帯数は4852世帯(平成19年度)気温は東京都とほぼ同じで、降水量は東京のほぼ二倍である。行政区域は、東京都大島町である。大島は伊豆大島火山と呼ばれる水深300〜400mほどの海底からそびえる活火山の陸上部分であり、山頂火口のある三原山は約50年間隔で噴火があり、1986年の噴火では全島民が避難している。

 調査は2回に分けて行なった。
 第一回目は6/18、第二回目は7/10に渡島した。一歩足を島の大地に着けると塩の匂いが鼻をつき、同時にじめじめとした潮風が肌にこびりつくのを感じる。
 レンタカー屋のおじさんにサッシと外壁材について聞くと「サッシは白い粒が付いて膨らんでしまい困っている。最近サッシ屋さんが来て色付きのサッシは大丈夫だと言っていた」と言う話と「10数年くらい前に本土から金属のサイディングを売りに来て、かなりの住宅に良いものとして取り付けたが、サッシと同じになってしまうと逃げるようにいなくなってしまった」と言っていた。
 レンタカーに乗り視察を開始した。経路としては、伊豆大島の東海岸に沿って野田浜〜岡田〜元町〜野増〜波浮と言う順番で特に海から100m以内の建物を中心に調査した。

コンクリート面の錆と爆裂
アルミサッシの腐食
大島で見つけた樹脂サッシ
 まず見たものはコンクリート面に雨だれとなっている錆と爆裂であった。特にかぶり厚さ(コンクリート表面と鉄筋までの寸法)の無い箇所は剥がれ落ち鉄筋が酸化してしまっていた。海のすぐ近くの建物は、かぶり厚さがとれていて、爆裂してしまっているものも数多くみうけた。特にひどいものは旧貝殻博物館で、現在は築40年以上を経過しているが骨をRCで一部壁やパラペット(陸屋根の周囲の立ち上がった部分)をALC(気泡軽量コンクリート)で施工しているのだが、柱梁のコンクリートは剥がれ落ち、ALC部分やパラペットは半分崩れ落ちるか、全てくずれ落ちるかと言った状態であった。後から聞いた話だが、あまりにもひどい状態になり危ないので10年前に別の場所に移したのだということであった。私も長い間建築をやっているが、30年程度で崩れ落ちる建物は初めて見た。
 サッシに関しては、アルミサッシの場合、最初に白く変色し、次に白い粒が表面に付着し穴が開き最後は解けて下地が出るまで腐食するようである。それよりも酷いのはステンレスのサッシである。ほとんどが茶色く錆が付きステンレスとは思えない状況であった。
 サイディングに関しても金属はアルミサッシと同様に色が変わったり、白い粒が表面についていた。特に鉄を使用したものは、完全に錆びてしまっていた。最近窯業系のサイディングが大島での主流になり、新しい住宅にはほとんど使用されているが、そろそろ変色が始まったものとか、脳天から打った釘がすべて錆びていたりしていた。木製のサイディングも数多くあったがそれ自体にはなんら問題は生じていないが、ほとんどが表面の塗装がはげていた。大島の人に聞くと3年に一度くらいは塗り替えるのだと言っていた。
 また上記のものに限らず外構の金属系のものはすべてにおいて錆びて朽ち果てているものを多数見受けた。

 そんな中で樹脂サッシを発見した!白い普通のサッシであったが、元町の海のすぐ近くにひっそりと2窓ついていたのだ。SUSの丁番部分は錆びて変色していたがサッシは元気に、佇んでいた。形式は10年以上前のものだとサッシ専門家が言っていたが、この厳しい条件下で長期にわたり生きていたのだ。他にも縦樋などの塩ビ製品はほとんど経年変化もみられず元気なのだ!このことは必ずや島民に対して大きなアピールになるはずだし、塩には塩!この島の元気印は塩ビなのだ。

今回この調査をして感じたことは、大島のような塩害地域に金属は極力使用せず、塩に強い素材を用いるべきであるということである。まさに塩ビのサッシやサイディングの出番であり、今後この普及活動を行う必要性を強く感じた次第である。(了)

随想
28℃の偽善(連載19)
国際連合大学 上野 潔

 クールビズが始まったのは2005年でした。最近では電車でもオフィスでも背広は着ていてもノーネクタイ姿は定着したようです。夏季の女性の服装と男性の服装はあまりにもアンバランスでした。男性のクールビズを徹底するならノーネクタイだけでなく半ズボンに開襟シャツも推進すべきでしょう。私の子供の頃は真っ白の麻のズボンに開襟シャツの紳士がたくさんいましたが今は誰も着ていません。開襟シャツなどは店にありませんが、普及するとサマースーツやネクタイがますます不要になるのでアパレル業界は作らないのだと思いますが。海上自衛隊の防暑服はキリッとして快適そうです。

 地球温暖化が話題になるはるか以前から、民間会社の工場では夏季の電力会社へのピークカット協力として工場の夏季休業期間をシフトし、冷房温度を28℃に設定する運動は始まっていました。
 今では、クールビズと冷房設定温度の28℃は日本全国に定着したかのようです。それを厳密に実行している機関があります。それが霞ヶ関の官庁街です。東京都庁や横浜市庁舎もそうです。(私の体験した役所だけでその他は知りませんが)特に経済産業省や環境省は温暖化対策の元締め官庁ですから、ビルに入るとムーッとします。

 確かに、冷房病対策のため毛布を膝にかけ襟巻きをして執務をするのは異常です。しかし、昼休みに消灯した暗闇の中で、蛍光灯スタンドをつけて机の下の扇風機を回して、執務をしているのも同じように異常です。最近は、冷房設定温度ではなく、温度計で執務机周辺の温度を計測する部隊もいるようです。執務机周辺の温度を28℃にするためには恐らく冷房吹き出し温度は25℃くらいが必要でしょう。地球温暖化対策のためには役人は30℃くらいのところで働くのは当たり前だというマスコミの声が聞こえてきそうです。

 霞ヶ関の役人は税金で働く日本のシンクタンクであり頭脳労働者です。マスコミやNPOの目を意識したパフォーマンスで、労働効率が下がることは困ります。
 民間会社はそんなことはしていません。もちろん節約は徹底しています。工場に行けば全ての照明にはプルスイッチが付いていますし、たった一人のために全館冷房するようなことはしません。最近のオフィスでは部屋別冷暖房も当たり前になっています。最近のリサイクル工場では作業者のために全館冷房の解体ラインや、スポットクーラーが設置されています。製品組み立てラインと同様の防塵対策、防音対策などの工場アメニティーが出来たから空調も実現しているのです。作業環境が良くなれば効率も上がりミスも減り、何よりも安全操業ができるからです。汗にまみれて働く時代ではありません。そのためには設備投資も必要です。
 霞ヶ関の高層ビルは、窓を開け、すだれを垂らし、打ち水ができるような構造ではありません。頭脳労働には、快適な環境が必要です。ノーネクタイが普及したのは、温暖化防止のためではなく楽だからです。しかし、霞ヶ関の異常な暑さはノーネクタイどころか下着で執務をしない限り対応できません。

 東南アジアではキンキンに冷えたホテルやデパートがあります。それは行き過ぎですが、快適な環境を確保することは必要なことだと思います。28℃で快適なのは、十分な空間と、適度な換気と、リラックスした服装の組み合わせがあってのことです。さらに付け加えればストレスの無い楽しい業務です。海の家なら別ですが、そんな条件はありえない霞ヶ関や会社のオフィスでは25℃程度が最適なのだと思います。そして多くの民間会社では、28℃の設定をしても不思議なことに?実際の執務室は25℃を保っているようです。

 ようやく勇気ある科学的な調査結果が日本建築学会から発表されました。早稲田大学の田辺教授の調査チームの報告です。室内温度が25℃から1度上がるごとに作業効率が2%ずつ低下するとのことです。そして3〜6席に1台の大型扇風機を運転すれば体感温度が下がって能率は維持されるそうです。窓の開かない高層ビルや集中冷暖房設備を変更せずに、冷房温度だけを28℃に設定するのは非科学的といえそうです。
 VEC会員のオフィスの本当の室温は何℃ですか?(了)

前回の「情報はタダ?(連載18)」は、下記からご覧頂けます。
https://www.vec.gr.jp/mag/186/index.html#zuisou

バックナンバーは、以下のアドレスからご覧頂けます。
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編集後記
 今週号は、8月最後のメルマガですが、読者の皆さんはどんな夏休みを過ごされたでしょうか。8月2日に始まった高校野球や8日から始まった北京オリンピックと熱戦が繰り広げられ、思わずテレビにかじりついてしまった一人でしたが、これらも終わり、ようやく普通の生活に戻れそうです。
 ところで、クールビズを実施している私共VECの事務所では、1日の間の時間や場所によって温度のムラがあって、うちわを使いたくなることもありますが、随想で紹介された理論からすれば、25℃の作業効率が2〜3%下がる程度といったところでしょうか。(HI)

VEC関連URL
●家族で学べるページ https://www.vec.gr.jp/kids_new/index.html
●塩化ビニル環境対策協議会 http://www.pvc.or.jp/
●樹脂サイディング普及促進委員会 http://www.psiding.jp/
●樹脂サッシ普及促進委員会 http://www.jmado.jp/
●メールマガジンバックナンバー https://www.vec.gr.jp/mag/index.html

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