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2008年7月8日
REACH認可対象物質候補としてのDEHPのノミネートについて
ECPI(欧州可塑剤・中間体協議会)の見解と
VECの解説

REACH認可対象物質候補としてのDEHPのノミネートについて
(ECPIコメント(訳注:DEHPのユーザーへのコメント))

  2008年6月30日に欧州化学物質庁(ECHA)はREACH認可対象物質の「候補物質リスト(candidate list)」に入れるためにEU加盟各国がノミネートした化学物質(訳注:つまり候補の候補)のリストを発表しました。

 予想されていたことではありますが(訳注:ECが定めたCMR物質67/548/EECは候補となると予想されており、DEHPもここに入っている)、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)がこのリストに挙がっていますが、最終的に候補物質リスト(candidate list)にも載ると思われます。

 これは昨年末、お客様イベントにて私どもが皆様方へ前もってご説明した通りの内容です。

 今回、DEHPがノミネートされましたが、最終的に固まるまでには長いプロセスを経ることとなります。ECHAでは、今後ノミネートされた各物質がREACHにて取り決めた認可対象物質とすべきかどうか審査することになります。その過程を経た後、物質は「候補物質リスト(candidate list)」に載り、2008年10月、ECHAのホームページに発表されます。

 最終段階(訳注:仮に認可対象物質となった場合)には、製造者またはユーザーは、欧州においてこれら物質の製造・使用し続けるために認可を求めることとなります。その過程に入るのは早くても2012年になる予定です。(訳注:ただし、DEHPおよびその調剤は予備登録しておく必要があります)

 皆さんはこれまで通り、自信を持ってDEHPをお使いいただけます。私どもDEHP製造者は、欧州における製造と使用に責任を持ち続けます。既存物質規制EEC 793/93の下で行われたEUのDEHPに関するリスク評価の結果、DEHP製造・使用におけるいかなるリスクも適切に管理できると証明されております。ゆえに、DEHPはほとんどの用途について認可が下りるはずです。

 私どもDEHP製造者は皆様が認可されるまで皆様方に情報を提供し続けます。認可プロセスの詳細はDEHP情報センターのウェブサイトでご覧ください。

www.dehp-facts.com

Tim Edgar
ECPI(欧州可塑剤・中間体協議会)事務局次長

原文はこちらからご覧ください。

ECPI.pdf

REACHの高懸念物質リスト候補の公表にあたって
塩ビ工業・環境協会
専務理事 関 成孝

(はじめに)

 欧州の新たな化学物質管理の仕組みとなるREACHが動きだしましたが、この6月30日に高懸念物質のリストの候補に入れる化学物質の案(つまり候補の候補)として16物質が公表され、8月14日までパブコメに賦されることとなりました。

 REACHにおいては、有害性(発ガン性、変異原性、又は生殖毒性(以上、CMR)、及び難分解性かつ高蓄積性で毒性あり(PBT)、或いは非常に難分解性で蓄積性が非常に高い化合物(vPvB))など、最終的に1500物質程度が高懸念物質として指定されるのではないかと考えられています。CMRについては、EUがカテゴリー1及び2の化学物質をリスト化しており、880余りの化学物質が入っています。この中にはガソリンや灯油の留分など身近な化学物質も少なくありません。しかし、今回、REACHの高懸念物質候補リストの候補としてあげられたのはわずか16物質です。無機化合物5種、有機金属化合物2種、及び、有機化合物9種ですが、なぜこの16物質が最初に選ばれたのかはよく分かりません。なぜなら、この16物質に比べて毒性がはっきりとしており生産・使用量が多い化合物も多々あるからです。

 16の個別の物質についてのレポートを見れば、すべてが際だって有害な、あるいは有害な懸念のあるものとしてあげられたものではないことは明らかです(対象となっている物質を表形式にまとめてありますのでご参照ください)。このようなリストを出す際に、どのような観点でこれらの物質が最初に選ばれたのかを明確にしないと世の中が混乱しかねません。この点については、EUには改善を求めたいところです。

 さて、この16物質の中に、塩ビ製品に使われる可能性のある可塑剤が3つほど含まれています。それらは、DEHP、DBP、及びBBPですが、日本ではDEHP以外のものは使用が無いかほとんど無い状況です。これらのいずれについても、EUではリスク評価が終わっております。その評価結果によれば、現状のリスク管理策を超えた規制等は必要がないと判断されています。このため、関係者の間ではREACHでは、現行の規制に従った用途であれば問題なく使用が継続できるものと考えられています(7月4日に欧州可塑剤・中間体協議会がDEHPについて声明をだしていますのでご参照ください)。

(REACHの手続き)

 REACHの手続きとしては、高懸念物質と分類された化学物質、あるいはこれらが含まれる調剤(Preparation)は年間1トン以上であれば、登録を行なうことが求められます。その登録に先立ち、予備登録を行なっておけば、登録はREACH施行(2007年6月1日)の後3.5年以内(つまり2010年11月30日)までに行なえばよいというルールです。0.1%以上の該当物質を含む成型品(Article)については届出が必要となりますが、これは2011年まで猶予されています。

 高懸念物質については、継続的に使用しようとする際には認可(Authorization)を受ける必要があります。認可のプロセスでは有害性と暴露情報に基づくリスク評価が必要となり、かつ、その物質の代替計画の提出も求められます。リスク評価の結果、安全な使用と判断されれば認可が得られます。安全性について懸念がある場合で代替品がない場合は、社会的な便益がリスクを上回る場合に使用が許可されることとなっています。既に、規制などによって適切な条件で使用することにより安全であることが分かっている場合には、その規制に従って使用を継続することが可能(つまり認可を受けられる)と考えられています。

 ところで、今回の高懸念候補リストに入ったDEHP、DBP、BBPについては、既にEUにおいてリスク評価が終わっております。結果は、今後、環境基準等の設定を勧奨していますが、新たな規制を求めるものとはなっていません。従って、現行の規制の枠内での使用であれば認可されるであろうと考えられます。

(有害性とリスクについて)

 DEHPについては、マウス・ラットにおいて肝細胞癌の発現が見られますが、げっし類特有の作用機構によるもので人には当てはまらないと考えられております。今回、高懸念物質の候補とすることを提案した欧州のペーパー(提案書)でも、発ガン性については同じスタンスを取っております。

 マウス・ラットに投与したときに精巣が小さくなる症状(精巣毒性)が認められていますが、霊長類のマーモセット(キヌザル)及びカニクイザルで試験をしたところ陰性でした。このため、人を含む霊長類への精巣毒性のリスクは小さいと考えられています。マウスとラットで見られた新生児死亡率の増加と奇形胎児の増加(生殖毒性)に関しては現時点で種差があるとは言い切れないとされていますが、DEHPについては、産業技術総合研究所が詳細リスク評価を行なっており、結論として現時点でリスクはないとの判断になっています。

 ところで、マウス・ラットに現れた生殖毒性は、60キログラムの人であれば、一生涯、毎日8グラムを摂取し続けることに相当しています。現実にそのようなことはあり得ない量です。ところで、皆さんはエチルアルコールにも生殖毒性があることはご存じでしょうか?

 さて、欧州の提案書においては、環境中、特に水生生物への影響についても議論しています。魚類のメス化の懸念等が指摘されていますが、その有害性を区分することはできないとの結論です。最近、欧州が出したDEHPについてのリスク評価書の結論としては、リスク削減策として適切な水質基準を作ることを提案しています。このことは、この基準を作る以外に追加的な規制等を導入する必要性はないことを意味しています。

 魚類のメス化とは、内分泌かく乱性のことを意味しますが、これは、環境省が行なったSPEED’98の結論としてDEHPを含むほとんどの物質について問題がないことが明らかになっていることはご承知の通りです。ところで、産業技術総合研究所の詳細リスク評価においても、環境中の生態リスクについてスクリーニングレベルの評価が行なわれています。結論としては、実環境にDEHPが溶存状態で存在したとしても、現状の検出レベルでは水生生物に対して有害な影響を及ぼす可能性は極めて低いというものです。

 DBP、BBPについては、日本では塩ビの可塑剤としての使用が無い、或いはほとんど無いとされているために、ここで詳細な分析は行ないませんが、表を見ていただけば分かる通り、現時点で問題となるリスクがある物質ではありません。

(結論)

 DEHPについては、有害性についての情報が豊富であり、その安全性が高いことが分かっています。輸液用のバッグでもDEHPが使われていることはその証左と言えるでしょう。しかし、安全性について極めて慎重な立場から、食品衛生法において、幼児、子供が直接に触れるもの等については使用をしないという規制があります。それ以外の用途での使用は問題がありません。

 REACHにおいては、高懸念物質のリストに加わる可能性があることは残念ではありますが、もともと欧州のCMRリストに入っていたために当初から予想されていたことではあります。また、EUにおいてもリスク評価が行なわれ、現状の規制以上の規制は不要との結論が出ております。従って、欧州の可塑剤・中間体協議会が声明を出しているように今後も安心して使用を継続することができると考えられています。

 なお、REACHの下での登録(及び仮登録)はREACHのルールに従って必要となります。現行の使い方であれば、実質的には自動的に許可が下りるものと考えられていますが、手続きの詳細があきらかになるにはもう少し時間がかかりそうです。

 VECとしても、新たな情報が得られましたら、その都度、提供させていただきますのでよろしく御願いします。