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2008年9月25日
DEHPの安全性情報と規制動向

1.最近の動向

 6月末に、欧州のREACHにおいて、高懸念化学物質の候補リストに載せる候補としてDEHP(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)を提案したのに続き、7月末には米国でDEHPについての連邦レベルの玩具規制導入が決まりました。このため、あたかもDEHPの有害性が見つかり規制が広がったかのように誤解される方も少なくありません。

 では現実はどうなっているのでしょうか?DEHPは、他の化学物質に比べて希なほどよく安全性データが収集されており、また、詳細なリスク評価が日米欧で実施されている物質であり、安全な使い方が確立されています。例えば、輸血用のバッグの製造にはDEHPが使われており、多くの人命の救助に貢献してきました。

 それでは、DEHPの毒性とは何なのでしょうか?実は、げっ歯類(マウス・ラット)において、大量投与時に精巣が萎縮する、あるいは、胎児の成長が抑えられるという影響が見つかっています。しかし、その後、日米欧でマーモセット等の高等ほ乳類で同様の試験を行なったところ、そのような異常は検出されず、げっ歯類に特異的に出る影響で人体への影響は小さいと推測されています。環境ホルモンの疑いをかけられたこともありますが、SPEED98の徹底的な調査の結果、問題はなかったことが判明しました。このため、日米欧の可塑剤業界は、規制は不要との立場です。

 しかし、安全重視の視点から、乳幼児が直接口にするような製品類には使用をしないという規制が各国で実施されています(日本は2003年、欧州は2006年)。
 DEHPについては、日本では2005年に産業技術総合研究所が、EUでは2008年にECがリスク評価を行なっておりますが、いずれも、現行の規制を超える制限の必要性を否定しています。最近出されたREACH高懸念化学物質候補リストに載せる提案でも同じ見解をとっています。

 米国には、これまで連邦レベルでの規制はなく、いくつかの州において、欧州とほぼ同じ規制を導入する動きがありました。例えば、2007年にカリフォルニア州、2008年にワシントン、ハワイ州で規制が導入されました。各州における規制内容に違いがあると混乱を生じることが懸念されるため、連邦レベルでの規制が検討され、2009年1月1日から実施されることになりました。その内容は、欧州の規制とほぼ同等です。

2.日米欧の規制内容

 いずれの国・地域でも、懸念されている毒性の内容から、乳幼児を主たる保護対象としています(注)。しゃぶるなどして、体重あたりの摂取量が大きくなることが懸念される製品について、DEHPを使用しないことを定めています。
 規制の範囲には多少の差があります。日本は3極の中では限定的です。しかし、実際には、文具、家電のコードなど、規制の対象外の製品群においても、DEHPの使用は行なわれていません。実態としては日本の方がより使用を制限している可能性があります。

3.今後の方針

 DEHPは、上述のように、安全性にかかる情報が豊富でリスク管理が行き届いている物質です。これを、特段の有害性データが見つかっていないからと言って安全性データの乏しい物質で代替することは、必ずしもリスクの低減にも安全性の向上にもつながりません。
 DEHPは、既に詳細なリスク評価が終了しています。REACHの高懸念物質にリストされた物質は、リスク評価をすることが求められますが、このようにリスク評価が終わっている物質であるため、可塑剤工業会、及び、弊協会は、追加的なリスク評価を求める必要が無い以上、高懸念物質リストに掲載するする必要はないであろうという意見をECに送っております。
 今後、DEHPについての新たな情報が得られれば速やかにご報告させていただきます。

欧米日のフタル酸エステル系可塑剤規制についての比較表をご覧いただけます(PDF)。⇒

注 : 規制内容は精巣への影響と成長への影響を考慮したものとなってはいますが、日米では精巣への影響については、げっ歯類とほ乳類との間の種差があることは認められています。他方、成長への影響についてはさらなる研究が必要とされています。欧州では一部の国がいまだに環境ホルモンの懸念を指摘していますが、規制の直接の理由とはなっていません。