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2008年10月10日
DEHPがREACHの認可対象物質候補とされたことについて

 10月9日、欧州化学品庁(ECHA)は、将来的に認可の対象となる可能性のある候補物質(SVHC)として14物質を決定したとの報道を流しました。既に、今年6月30日に候補リストが提案されており、その後のパブコメ等を踏まえた決定とのことです。
 SVHCになった物質は、さらなる評価とパブコメを経て、2009年の6月1日までに、ECHAはECに対して認可(Authorization)対象物質とするか否かの提案をすることとなっています。SVHCとなると将来的に新たな規制が加わるのではないかと懸念する向きもありますが、必ずしもそうではないと考えられています。

 以前にもメルマガで紹介しましたが、DEHPは、希なほど詳細な安全性データが収集されており、欧州においてもすでに詳細なリスク評価が終了しています。手続き的にはさらなる評価とパブコメを行なうことになるのでしょうが、既に詳細リスク評価を行なう課程で実質的な評価とパブコメが行なわれています。そして、現行の使用制限(玩具及び育児用具への使用の禁止)を超えるリスク削減策は必要ないと結論しています。このため、おそらく現行の使用制限が維持されるであろうと考えられています。

 ただし、SVHCになることで、0.1重量%を超えるDEHPを含む製品については、川下のユーザに対しては情報提供義務が生じます。実際に義務が生じるのは、ECHAのWEBに正式に掲載された時点です。10月22日頃ではないかという情報もあります。十分な対応ができるように、可塑剤業界において英文のMSDSを用意いたしました。
(英文MSDS:http://www.kasozai.gr.jp/msds/msds01.html
 また、消費者からの問い合わせがあれば45日内に答えることも必要ですが、これは、一義的にはEU内で製品を消費者に提供する者にかかる義務です。上述のEC自身が行なった詳細なリスク評価結果も活用できるはずです。

 本件及び米国の規制動向に関する情報をアップデートした資料(下記「塩ビ可塑剤に関する最近の動向について」と欧米日のフタル酸エステル系可塑剤規制についての比較表(PDF)⇒)を用意してありますので、そちらもご覧ください。

塩ビ可塑剤に関する最近の動向について  (当記事はアップデートいたしました。こちら⇒
2008年10月10日
塩ビ工業・環境協会
可塑剤工業会
日本ビニル工業会
1.REACHにおける動向

(1) 概要

6月30日に、高懸念化学物質(SVHC) 1候補としてDEHP他塩ビ可塑剤として使われる2物質が提案された2。その後、10月9日に、これらの物質がSVHCとなったとの報道が行なわれている。
いずれも既に玩具、育児製品での使用が規制されているが、他の用途での使用は認められている。
SVHCは認可対象物質となる可能性があるが、ECはこれらの物質について詳細リスク評価を終えており、現行の規制を超える規制は必要ないと結論している。SVHC候補とするスウェーデンの提案書でも、現行の規制を超える規制は必要ないとしている。このため、現行の使用制限が維持されると予想される。
SVHCとなることで0.1%を超えてDEHPを含有する製品については川下への情報提供義務が発生する。正式にECHAのWEBに掲載された時点がスタートとなる。可塑剤業界において提供されている英文MSDS3で対応可能。

(2) SVHCを含む製品(成型品、調剤(コンパウンド))に求められる対応

(SVHC対象物質を含む(意図的放出がない)成型品の扱い(一般則))

SVHC指定された化学物質が、0.1重量%超で、年間1トン以上となる場合は、欧州化学品庁に届出する必要がある4。ただし、当該物質(DEHP等)が、当該用途で誰かにより登録されていれば届出の必要はない5

成型品を安全に使用するための情報(最低限物質名)を川下ユーザに提供6
消費者からの要請があれば安全に使用するための情報(最低限物質名)を45日以内に提供7

(コンパウンドに求められる対応)
構成化学物質の登録が必要(構成物質毎に年間1トン以上となるものが対象)
PVC樹脂の登録は不要だがサプライチェーンのVCMの登録が必要。

(3) 規制(Restriction)対象となっている化学物質8に関する対応
制限されている用途には使用できないが、それ以外には使用可能。

(4) DEHPはどうなるのか?

(規制内容について)
DEHP(及びDBPとBBP)は、欧州で2005年に規制が導入されたことから、REACHにおいても規制対象となっている。規制内容は、おもちゃと育児用品へは、0.1重量%を超える使用は禁止されている。ECは、2010年1月16日までに新たな科学的な知見を基に再評価し、必要に応じて規制内容を変更することとなっている。
DEHPについては、最近までECが詳細なリスク評価を行なっており、2008年6月に終了している9。現行の使用制限を超える制限は必要がないと判断しているため、再評価においても現行の使用制限が維持されるものと予想される。

(DEHPを含む成型品の義務に関して)
DEHPがSVHCとなったことで川下ユーザに情報提供をする義務が生じるが、可塑剤メーカーが提供するMSDSで足るものと考えられる。
消費者からの要請への対応は欧州で製品を供給する者に課される義務。基本的には物質名と供給者が知りうる範囲での安全な取り扱い情報。

1 REACH第57条対象物質で認可対象物質の候補。
2 http://echa.europa.eu/doc/press/pr_08_18_pub_consultations_20080630.pdf
http://echa.europa.eu/consultations/authorisation/svhc/svhc_cons_en.asp
なお、塩ビ工業・環境協会と可塑剤工業会は、安全な使用法が確立されており追加的なリスク評価を求める必要がない以上、SVHCに指定する必要はないとの意見を提出している。
3 英文MSDS:http://www.kasozai.gr.jp/msds/msds01.html
4 REACH第7条2項
5 REACH第7条6項
6 REACH第33条1項
7 REACH第33条2項。欧州で製品を提供する者にかかる義務。
8 REACH付属書XVIIに含まれる物質
9 http://ecb.jrc.it/documents/Existing-Chemicals/RISK_ASSESSMENT/REPORT/dehpreport042.pdf

2.米国の連邦レベルでの可塑剤規制

(1)概要

2008年8月14日、可塑剤6種類(DEHP、BBP、DBP、DINP、DIDP、DNOP)に対して連邦レベルの規制導入が決まった。施行は2009年1月1日。
規制内容は欧州の規制とほぼ同等。DINP(及びDIDP、DNOP)への規制はDEHP(及びBBP、DBP)に対するものより限定的で、口に入れる可能性のあるものに限られている。
これまで複数の州で規制が導入されてきた10が、各州の規制内容の違いによる混乱を避ける効果がある。

(2)規制内容

DEHP他2物質についてはおもちゃ(12歳以下)、育児用品(3歳以下)全般に使用規制(0.1%以下)。DINP他2物質は、子供の口に含まれる可能性のあるもの(おしゃぶり等)への使用規制でありより限定的。

(3)実態と対応について

日本の規制は欧米に比べて若干限定的ではあるが、日本国内で生産されている製品では、玩具、育児用品ではDEHPは事実上使用されておらず、一般的に欧米の規制並の対応が採られている。
仮に米国向けで12歳以下の子供が使用する可能性のある製品であってDEHPが使用されている部品等があっても、直接口に入れることが想定されていない用途であれば、DEHPをDINP等で代替することで対応が可能と考えられる。

10 例えば、2007年にカリフォルニア州、2008年にワシントン、ハワイ州で規制が導入されている。