都市水環境とプラスチック |
積水化学工業株式会社 神谷昌岳
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1.先祖様の知
「
豊葦原瑞穂國
」神々の時代、祖先たちは自分たちの国をこう呼んだ。温暖な気候と豊かな水資源に育まれた自然を敬い、有難くその恵みを頂戴して、決して無駄使いはしない。連綿と続くその営みは日本人の誇りであり、環境の世紀を生き抜くための知恵が詰まっている。日本文化は水の神格化を
嚆矢
とすると言ったら過言か、名刹や名勝には必ずと云っていいほど泉がある。たしか、水神の化身は龍であった。
2.子孫の戸惑い
万物は流転する、のだ。日本には毎年、琵琶湖の23杯以上(約6500億トン)の降水がある。その3割は蒸発散し、残り7割のうち半分は川や海に流出、もう半分は地下へと浸み込んでいく。都市と山間部では比率は異なっていて、都市では流出分が多く、蒸発散、浸透分が少ない。この流出分の多さと蒸発散量の少なさが都市水害とヒートアイランド現象の元凶である。排水が追いつかず大量の雨水が市中を彷徨う(内水による)都市水害は、平成12年の東海豪雨、17年の杉並・中野浸水被害として記憶に新しい。さらに、蒸発散量不足により熱が都市からぬけなくなるヒートアイランド現象は、都心気温が周辺部より高くなり、熱中症や健康被害を引き起こすと云われている。葦原や稔る穂を眼前から排除し、自然を畏怖することを忘れた子孫が作ってしまった現実なのだ。今一度、気象変動を叫ぶ前に、龍の力によって循環系を守ろうとした祖先たちの知恵を見直すべきではないだろうか。
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浸透施設
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貯留施設
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3.龍の霊力は何処
現在、その地域の降雨実績量を基に、集水面積と排水能力から計算された彷徨う雨水は、点在する駐車場や公園、学校校庭など比較的容量の確保しやすい空間で待ち伏せられ、一時的に貯留されることが増えている。ただ、次の雨に備えるため、貯まった雨水は下水道ネットワークに速やかに排出される。それら施設の多くは地下にあって、プラスチック部材の組立て工法が主流で1万トン未満の貯留容量のものが殆ど。仕組みは簡単、プラスチック板材などで槽を三次元に組み立て、外周をシートで包むだけである。(社)雨水貯留浸透技術協会http://www.arsit.or.jp/調べでは、H18年度のプラスチック工法実績は全国で34万m3(2918件 対前年比149%)、2010年には500億円の市場規模(環境省推計)に達すると目される成長分野である。今後、大都市から地方都市への波及、民間開発への指導強化が予想されることから、需要の拡大が見込まれている。しかし、水を待ち伏せるだけでいいのだろうか?天の恵みを簡単に捨て去ってしまっていいのだろうか?龍の霊力はもっと大きな流れを司っていたはずだ。
4.われら子孫の知:ドラゴンネットワーク
我が国の下水道
管渠
の総延長は約38万km、東京都では1.6万kmにも及ぶ。莫大な労力と税金を投じた世界に冠たる地下ネットワークである。この地下ネットワークと地上をクロスリンクできないだろうか。6月に東京都が“緑の東京10年プロジェクト”を発表した。注目すべきは、街路樹を10年内に現在の2倍以上の100万本にまで増やすという計画(グリーンロード・ネットワーク)で、まさに都市に出現する地上ネットワークである。植物は地界と天界を紡ぐ不思議な生物で、水を介して両者を繋ぎ合わせることで見失った大きな循環系の再構築にならないだろうか?そのためには、施設に気象と連動するような機能を組み込むことや施設の連結、街路に沿う施設の線状化など改良の必要もあるだろうが、彷徨う恵みを緑を通してゆっくりと天に還すという祖先の知に近づけるはずである。何も東京だけの話ではなく、日本中の都市で実現可能だろうし、事実、ご先祖様はそういった街づくりをやってきたのだ。ここに私は、地上と地下のネットワークをリンクすることでの龍の道=ドラゴンネットワーク構築の必要性を提案したいと思う。もちろん、水の局在化や維持管理をどうするのか、長期雨が降らないときどう対処するのか、など課題は多いが、地下ネットワークの主役はプラスチック、塩ビの華やかな舞台である。プラスチック屋の技術と経験はそれらを乗り越えて行ける重要な力になり得ると信じている。我々に新たな大役が巡ってきたのかもしれないなあと思う今日この頃である。(了) |
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