窓の断熱化が温暖化対策の決めて |
塩ビ工業・環境協会 専務理事 関 成孝
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今年のノーベル平和賞が、ゴア氏とIPCCに贈られました。世にわかりやすく気候変動問題を説き、この問題への取り組みの土台を作ったことがその受賞の理由です。IPCCの受賞は、その第四次報告書作成作業に直接関わってきた小生にとって嬉しいニュースでした。
IPCCの第四次報告書は、今年、三つの作業部会(それぞれ、気候変動についての科学的知見、温暖化の社会経済システムや生態系への影響と適応策、温暖化防止対策を扱っています。)で相次いでまとめられました。報告の内容は、第三次報告書の基調をほぼ踏襲しており、温暖化の可能性や影響についてはより断定的な書きぶりとなっています。
第三次報告書作成時は、様々な側面で、気候変動をより大きな問題としようとするバイアスが働いているのではないかとの批判があったことを反省し、今回の報告書作成課程では、パチャウリIPCC議長は、異論を唱える者や産業界の専門家を積極的に関与させてきました。日本の産業界の専門家が、WG3の運輸部門を扱う章の調整役を務めるなど、日本からも多くの産業界の方々が、プロセスに関与してきました。今回の第四次報告書の政策的意味合いは、これまでの報告書よりも重いものとなっていると言えましょう。
第四次報告書によれば、2030年には、世界の温暖化ガス排出はCO2換算で2000年の約40Gtから25〜90%増加すると予測されています。そして、その増分の2/3から3/4は途上国によるものです。他方、排出削減ポテンシャルは、CO2トンあたり50ドル以下の対策で15〜25Gtとされています。このうち、産業部門(鉄鋼、化学、セメント、製紙等。発電等のエネルギー供給産業は入っていない)で3.5Gt程度であり、その大半は途上国のものです。OECD諸国のポテンシャルは1Gtに及びません。しかし、住居、建物部門のポテンシャルは6Gt近くもあります。OECD諸国でも2Gtほどとされています。温暖化対策を進める上で、この部門での省エネが大きなインパクトを持つことを示しています。
住居・建物部門の省エネの鍵を握るのは冷暖房効率の向上です。米国では住居・建物部門のエネルギー使用のおよそ5割が空調に使われます。ドイツでは、この比率は8割程度にまで高まります。日本は、他の先進国に比べればずっと省エネ型の生活をしていますが、それでも、3割程度を空調で消費しています。この空調の効率を上げる鍵を握るのが窓の断熱化です。日本では、住宅からの熱損失は、窓等開口部が冬場で58%、夏場が73%となっています。この開口部に樹脂(塩ビ)サッシの複合ガラスを導入することで、熱損失を1/3程度にまで削減することが可能です。結果として、日本全体では、炭酸ガス3500万t削減のポテンシャルがあると推計されています。これは、京都目標達成に必要な削減分の2割に相当する大きな量です。
環境先進国を標榜するドイツでは、この樹脂サッシの導入比率はゆうに5割を超えています。米国は5割弱。お隣の中国は2割です。韓国では、昨年販売された窓枠の半分は塩ビ製でした。それに対して、日本ではまだ1割にも達していない様子です。
樹脂サッシの導入のメリットは、省エネ(そしてCO2排出削減)に留まりません。結露を防止し、カビやダニの発生を抑える効果があるとされています。温熱環境が安定化するために、心臓発作や脳溢血などの発病を抑える効果も期待されています。また、建物の躯体の腐食を防止し長寿命化に寄与します。遮音性にも優れており、外への音の漏れ、或いは外部の音を1/60程度(35dB)に減らす効果があります。
まだ、導入のコストが高めなのが難点ですが、国の補助金も用意されています。補助制度を有効に活用して、環境にも人にも優しい住環境を作っていただければと思う次第です。(了) |
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