ナミビア旅行記(5)−HIV− |
(社)日本化学工業協会 若林康夫
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HIV、いわゆるAIDSはナミビア(ナミビア共和国)では大きな問題です。というより、普段の生活の隣に位置しているといってもよいでしょう。
現在、ナミビアではWHOを中心に、アメリカやヨーロッパ各国とナミビア政府によるHIV撲滅プロジェクトやプログラムが様々な形で行われています。一般の人向けにもHIVに関する啓蒙活動が行われています。テレビ、ラジオ、新聞などマスコミを利用したものはもちろんのこと、高校になると授業の一環としてHIVに関する様々な教育が行われ、その教育開始年齢も早い方がいいということで年々早まり、来年(2009年)からは中学に引き下げられる予定です。このような活動のためか、わずかずつですがHIVのキャリアや感染者の方の数は減りつつあります。
健康保険は、所謂勤め人(サラリーマン)とその家族は加入が義務付けられており、保険料の負担は雇い主と折半と日本とほぼ同じ条件ですが、自営業の人や農民などは任意加入となっており国民皆保険にはなっていません。その代りに、各地域に日本でいう互助会のようなものがあり、病気や怪我をした場合の治療費、休業補償(最長6か月。延長はなし)などはこの互助会で負担をするシステムがあります。しかし、最近では若い人を中心に、自分たちは使わないのに互助会費を負担するのはおかしいという意見が強まってきており、地域によっては互助会システム自体の存続が難しくなっているところがあるとのことです。
医療費は私立の病院は健康保険加入者であっても原則、全額自己負担。公営の病院は、健康保険加入者は病気や怪我の種類にもよりますが1〜3割負担です。ただ、居住地に公営病院があるとは限らず、治療や入院にはかなりの距離の移動を求められることが多く、地方ではいまだにシャーマン(無資格だが民間療法や経験で治療を行ったり、祈祷により病気やけがを治したりする呪術師の総称)が健在です。救急車もありますが、電話などで呼んでもかなり離れた場所から来るため、到着まで数時間待ちなどは当たり前。到着時にはすでに手遅れということも多いようです。人口密度が低いことが医療面でも大きな影響を与えています。
ちなみに、ナミビアには医科大学はありません。このため、医師(獣医さんも含む)は全員が留学経験者かお雇い外国人医師になります。
獣医さんで思い出しましたが、ナミビアでは野生動物保護の意味もあり、犬や猫には予防接種はもちろんのこと、生まれたら3週間以内に体内に識別用のマイクロチップを埋め込むことが義務付けられています。このマイクロチップにより、飼い主だけでなく、予防接種・生育など様々の記録が分かるようになっており、もし、ペットが逃げだし野生動物に影響を与えた場合には飼い主の特定のみならず、その影響(感染症の有無等)がすぐに確認をすることができるようになっています。ペットの犬や猫は大自然の中で伸び伸びと育っているように見えますが、話を聞くと、日本よりかなり制約がある中で生活をしているようです。
野生動物に関しては当然のことながら保護法があり、ハンティングの数だけでなく、迷い野生動物や怪我をした野生動物の保護に関してもかなり細かい法律があります。
親から離れてしまった迷い野生動物や交通事故などの理由で怪我をした野生動物は全て保護の対象となります。とは言っても一般の家庭で保護をしたり飼育をしたりすることは特別の場合を除き認められておらず、政府が認めた施設や飼育施設のある農場のみに保護や飼育が認められています。
人間が野生動物を飼育する場合は、犬や猫と同様、小鳥など小動物を除き全てマイクロチップを体内に埋め込むことが求められます。また、病気や怪我をしている野生動物に対しては全身状態の確認と統計処理のため全身のレントゲン写真の撮影が求められます。この費用は発見者、若しくは保護した政府指定の施設や農場の負担となるため、農場などでは保護を断る事態も発生しています。
人間と野生の動物が接して生きていくのは、現代ではお金がかかることなのかもしれません。(続く)
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