===「塩ビと環境のメールマガジン」 第27号 === 2002/3/14

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目 次

☆巻頭コラム
 もう一度おもちゃ規制に反論します
 「TDI解釈のはき違え」

☆特別寄稿
 塩ビ環境コミュニケーション(上)
  東京大学 生産技術研究所 教授 安井至

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☆巻頭コラム
 もう一度おもちゃ規制に反論します
 「TDI解釈のはき違え」

 前号に続いて、厚生労働省が進めている、塩ビ製のおもちゃなどに
対する法規制について意見を述べます。

 前号では、規制の科学的根拠になっているデータが、ネズミのデー
タに基づくものであり、一方で、この可塑剤の生体への影響は、ネズ
ミとヒトでは作用メカニズムが異なり、ヒトの場合は影響がないか、
あってもごく少ないという学説があること、さらにこの学説を強化す
る研究結果が近々発表される予定であることなどを述べ、拙速な規制
措置には大きな疑問が残るとの見解を述べました。

 今回は、もうひとつの論点である、この規制の根拠になっているデ
ータ及びそれに基づく規制の方法は適切か、ということについて述べ
てみます。

 この規制を進めるにあたり、厚生労働省は、生後6〜10ヶ月の赤
ちゃん40人の「おしゃぶり行動」を調査し、一方成人25人に15
分間塩ビ製の円形板をしゃぶらせて唾液中に溶出した可塑剤量を分析
し、これらから、赤ちゃんが暴露される可塑剤量を統計的に推定しま
した。その結果、「通常は玩具以外のものもしゃぶる行動をとる乳幼
児が、玩具ばかりをしゃぶると仮定した場合」、「極端な条件を想定
すると」、「TDIの下限値を超える暴露が生じる可能性が否定しき
れない」という結論を出しました。したがって、何らかの規制を考え
ざるを得ない、というわけです。

 念のためTDIについて述べますが、TDIとは「耐容一日摂取量」
のこと、つまり、「生涯摂取し続けても健康に影響のない量」のこと
です。すなわち厚生労働省は、極端な想定の場合に、TDIを超える
恐れがあるので、赤ちゃん向けのおもちゃの規制をするといっている
のですが、ということは、ヒトは一生涯おもちゃを赤ちゃん並みにし
ゃぶり続けるという前提を置いたことにならないでしょうか。

 百歩を譲って規制止むなしと考えた場合でも、暴露量がTDIを超
えないような措置を講ずることで充分である、とわれわれは考えます
が、規制案の内容は、「おもちゃの製造にDEHPという可塑剤を
(乳幼児が口に入れるおもちゃにはDINPという可塑剤も)含有す
る塩ビを使用してはならない」というものです。ことが赤ちゃんへの
対策ですから、通常の成人に対するよりは手厚い対応にするべきだ、
という理屈も充分判りますが、そのことを差し引いてもこの規制では、
例えはよくないですが、無断駐車をしたら死刑にするようなものでは
ないでしょうか。

 論理的に、科学的に考えれば、なかなか法規制の網にはかかりにく
い、しかし、塩ビの使用を止めさせたいという一部勢力からの圧力が
ある、何とか網にかける理屈はつかないものか?と関係者が苦労した
結果がこれである、と勘ぐるのは勘ぐり過ぎ・・・でしょうね。それ
ならそれで誰でもが納得のいく、きちんとした説明を聞かせて欲しい
ものです。


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☆特別寄稿
 塩ビ環境コミュニケーション(上)
  東京大学 生産技術研究所 教授 安井至

 現在、環境省が主催して、化学物質に関する円卓会議なるものが行わ
れている。どのようなメンバーが参加しているかについては、Webサ
イトでご確認いただきたい。さて、ここで最大の問題になりそうなこと
が、当たり前かもしれないが、やはりリスクコミュニケーションである。

 最近、市民団体などの理解もかなり進んでおり、「ゼロリスクは不可
能だ」ということは共通認識になってきた。しかし、リスクが多少でも
あるものは、製造を禁止すべきである、という主張も完全に消えたとい
う訳ではなくて、未然防止原則、あるいは、予防原則と呼ばれる原則が
リスク回避にとって、もっとも重要な原則であるとの立場を取る人も多
いのも事実である。

 さて、この予防原則なのだが、塩ビ業界内では、一体どのように理解
され、議論されているのだろうか。個人的には、この原則は実施不能な
原則であって、精神条項以上の意味は無いとの立場である。なぜならば、
もしも予防原則を適用しようとしたら、その問題に関してリスクが確実
に存在することだけではなく、被害も出ることが確実に予測される必要
があるが、その「確実」であることを誰がどのように判定するのか、と
いう根幹的問題が存在するからである。科学的な不確実性を伴う場合に
こそ予防原則が必要なのだが、不確実性の故に被害の予測を確実にする
ことはできず、したがって発動もできない、という自己矛盾を有する原
則のように思える。

 さて、塩ビの排除を主張する場合、どのような論拠に基づいて、その
主張がなされるのだろうか。一つには予防原則的な発想があるだろう。
このようなケースに対応することは、実は比較的容易ではないかと思え
る。なぜならば、塩ビには長い歴史があるからである。過去において塩
ビを原因とする被害が出たとされる実例のすべてを詳細に開示し、同時
に、将来の塩ビの使用状況、また、廃棄やリサイクルについて予測され
る状況を開示することによって、将来における被害の予測をかなり確実
に行うことが可能だからである。

 一般に、環境問題の解決方法の一つとして、時間的な解析というもの
が重要であって、過去の事例と、未来の事例の比較において、そのリス
クを感覚的に判定する方法は、どうやら間違わない方法のようである。


  ○安井至さんのホームページ
   「市民のための環境学ガイド 時事編」
     http://plaza13.mbn.or.jp/~yasui_it/

  ○化学物質と環境円卓会議ホームページ
     http://www.env.go.jp/chemi/entaku/index.html


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☆お知らせ

 ■出展紹介 西日本トータルリビングショー(小倉)
  3月14日(木)〜17日(日)10:00〜17:00
  西日本総合展示場新館 ブースNO.12
  (JR小倉駅 下車徒歩5分)

   この展示会はプラスチックサッシ工業会、プラスチック
   サイディング懇話会にて出展しています。

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☆編集後記

  東京大学安井教授から、本誌に寄稿していただきました。
 今回と次回に連載させていただきます。どうもありがとうござ
 いました。
  話は変わりますが、先日、生まれて始めて確定申告なるもの
 をすべく税務署に行きました。去年から貰いはじめた年金所得
 の ためです。普段のサラリーからの重税に加えて、ン万円の
 課税を申告して、アーア、税のない国へ行きたいね、と独り言。
 夜になってTVをつけたら、例の宗男騒ぎ。世の中どうなって
 いるのでしょうね。(H2記)

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[塩ビと環境のメールマガジン]

 発   行  塩ビ工業・環境協会
 編集責任者  佐々木 修一

 塩ビ工業・環境協会     https://www.vec.gr.jp
 塩化ビニル環境対策協議会  http://www.pvc.or.jp