===「塩ビと環境のメールマガジン」 第28号 === 2002/3/22

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目 次

☆巻頭コラム
 「過作為の落ち度」を心配する。
   塩ビおもちゃ規制の厚生労働省審議会案に愁う

☆特別寄稿
 塩ビ環境コミュニケーション(下)
  東京大学 生産技術研究所 教授 安井至

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☆巻頭コラム
 「過作為の落ち度」を心配する。
   塩ビおもちゃ規制の厚生労働省審議会案に愁う

 例の塩ビ製おもちゃの規制に関し、15日に、厚生労働省の、薬事・
食品衛生審議会食品衛生分科会毒性・器具容器包装合同部会という長
ったらしい、要するに本件を検討する審議会の会合が開催され、一般
にも傍聴が許可されましたので片隅で議論を見聞きしてきました。
 その結果、またまたイチャモンをつけたくなりました。毎度おなじ
み、おもちゃ談義の3回目です。

今回の規制案に対する私たちの主な主張は

 1.本件はネズミには出るがサルには出ない。種差の影響を
   考慮すべきである。
 2.極端に安全サイドに立った時に一時期TDIを越えるケ
   ースが出てくる程度の状態で、使用を全面禁止にするの
   はやりすぎである。
 3.この種規制は国際的なコンセンサスの下に進めるべきで
   あり、日本だけが独自の判断をすることはふさわしくない。

 といったところでした。この日の会議は、昨年8月に集められたパ
ブリックコメントの結果を踏まえ、規制に関する方向付けをする会議
とされており、上記のようなコメントを出した私たちとしては、その
コメントに対する審議会としての見解をきっちり聞かせていただける
と期待していたわけです。

 審議会では、137通、517項目に及ぶパブコメが紹介され、
それぞれに対して見解が述べられていました。しかし、その内容たる
や、私たちのイメージとはかなり違ったものでした。

 例えば、種差の問題については、「サルで毒性が発現しないことの
みを持ってヒトで毒性が発現しないと言うことも困難」とし、「今後
、新たなデータが得られれば、必要に応じ、当該データを検討するこ
とは当然のこと」としながらも、「現時点では、DEHPのTDIの
根拠として、ラットの精巣毒性のデータを用いることとした」として
います。

 TDIの解釈と規制の方法については、「一時期TDIを超える暴
露があっても、その後継続的な暴露が想定されないのであれば規制は
不要という考え方は、指標値としてのTDIを否定する考え方である」
と解釈し、極端に安全サイドに立った前提下で全面使用禁止にするこ
とについても「最悪の場合に安全であれば、問題は生じないもの」と
コメントしています。

 また、海外との規制の整合性については、(パブコメとは別に、W
TO通報に応じて世界各国から66項目に渡る意見が寄せられたよう
ですが)、概して、海外事情を考慮するよりも食品の安全性を守るこ
とが優先するという立場のようでした。

 こうやってまとめてみれば、厚生労働省の見解はそれぞれ一理ある
かのようにも見えますが、要するに本件のリスクの大きさをどの程度
と考えるかの認識の問題だ、と愚考します。ちょっとでも懸念がある
から規制する、それも有無を言わさぬ全面使用禁止という考えは、リ
スクが重大であり、国民生活に多大の影響を及ぼすケースでは必要な
アクションでありましょうが、本件の様に一時期の、しかも比較的軽
微なリスクの場合にまで拡大適用することが果たして正しいやり方な
のでしょうか。その辺りまで充分考慮して対応することこそ、真の行
政のあり方ではないかと思うのですが、如何でしょうか。

 最近、厚生労働省は、薬害エイズや狂牛病など種々の案件について
「不作為の落ち度」を問われています。その落ち度を恐れるあまり、
「過作為の落ち度」を犯しかけているのではないでしょうか。どうも
そう思えてならないのです。


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☆特別寄稿
 塩ビ環境コミュニケーション(下)
  東京大学 生産技術研究所 教授 安井至

 前回、予防原則的な発想に基づく塩ビ排除の主張があれば、それに
対処する方法論について述べて見た。すなわち、過去と未来を比較す
る方法論を採用すべきというお奨めをしたつもりである。

 しかし、実際のところ、反塩ビの主張の多くは、予防原則を正面切
って主張するものではなく、「塩ビはダイオキシンと同義だ」という
思い込みと、「塩ビを排除することが環境負荷低減と同義である」と
いう2種類の思い込みによるものが多いように思える。このような思
い込みに対応することは、実はもっとも難しいことである。なぜなら
ば、非科学的だからである。

 このタイプの思い込みを打ち破るには、「ダイオキシン=焼却炉」
という思い込みを逆に利用して、「塩ビは焼却しません」、「焼却炉
に入るような塩ビ製品は作りません」と宣言することがもっとも効果
的である。もちろん、塩ビ業界内部で、このような合意が得られるこ
とは困難かもしれないが、今後10年以内に、最終的には受け入れる
以外にないのではないだろうか。

 それでは、筆者は「塩ビの焼却=ダイオキシン」と考えているのか、
と問われれば、「多分現象としてはイエスだろうが、それが重要だと
は思っていない」というのが答である。塩ビ焼却の問題点は、むしろ、
塩素そのものにあるとの立場である。すなわち、燃焼のコントロール
を難しくしている、処理をするために、石灰や苛性ソーダなどを吹き
込む必要があって、コストがかさむ、防錆を完璧にするために高い設
備になる、といったところである。最後の炉の設備については、最悪
な物質は、むしろ生ごみ由来の食塩・ハロゲン化アルカリかもしれな
いが、実は、生ごみも焼却すべきではないと考えている。生ごみの処
理費用を高くすることが、21世紀前半の最大の環境問題である食糧
問題の解決の一助になるのでは、と考えているからである。

 塩ビの有用性を主張することも、思い込みを破る有効な方法の一つ
である。塩ビパイプは、ひょっとすると、人類最良の発明品かもしれ
ない。これほどの利便性と経済性が両立している製品は、他にはない
かもしれない。なぜそうなのか、といった情報を開示しつつ、思い込
みの強い人々に、塩ビといっても一種類ではないのだ、と思わせる戦
略が必要だろう。なお、「塩ビ+焼却炉=ダイオキシン」に類似した
ものに、「塩ビが火事で燃える=ダイオキシン発生」という思い込み
があるが、これについては、塩ビがいかに漏電による火災件数を減ら
してきたか、という実績を示すしかないだろう。これは紛れもない事
実なのだから。


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☆お知らせ

 ■塩化ビニル産業 日中共同フォーラム開催

  化学工業日報社と中国の化学産業専門紙、中国化工報社の共催で
  (協賛—塩ビ工業・環境協会、中国クロロアルカリ工業協会、
   後援—経済産業省、中国大使館、関係団体)
  4月22日−23日の両日、東京・新宿の厚生年金会館で「塩化
  ビニル産業 日中共同フォーラム」を開催致します。奮ってご参
  加下さい。

  「開催要領」
    日 時 4月22日(月)終日、4月23日(火)午後1時終了
    会 場 東京厚生年金会館 新宿区新宿5−3−1
    参加料 1名 ¥34,000円(一般)
        同一法人・団体から複数のご参加の場合は2名様より
        ¥29,000円。
        また塩化ビニル環境対策協議会協賛企業の方は1名様
        ¥29,000円。
        前記料金には資料代、初日昼食代、お茶代、晩餐交流
        会費、消費税などを含みます。

  【お問合せ先】化学工業日報社 企画事業局事業グループ
         〒103-8485 東京都中央区日本橋浜町3−16−8
         電話 03-3663-7931 FAX 03-3663-2330

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☆編集後記

  H2はのんべえで、少なくともここ10年以上、毎日晩酌
 を欠かせません。まちがいなく、アルコールのTDI(そん
 なのあるのかしら)以上を飲み続けていると確信しています。
  これって、厚生労働省にばれると、全国的にアルコール禁
 止令が出るんでねえの?曰く、「エチルアルコールを含む酒
 類を製造してはならない」。(H2記)

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[塩ビと環境のメールマガジン]

 発   行  塩ビ工業・環境協会
 編集責任者  佐々木 修一

 塩ビ工業・環境協会     https://www.vec.gr.jp
 塩化ビニル環境対策協議会  http://www.pvc.or.jp