===「塩ビと環境のメールマガジン」 第31号 === 2002/4/11

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目 次

☆特別寄稿:
 あくまでも科学的な調査に裏付けられた室内空気汚染対策を
 「特定非営利活動法人 シックハウスを考える会 理事長 上原裕之」

☆お知らせ
  ・塩化ビニル産業 日中共同フォーラム 4月22、23日


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☆特別寄稿:
 あくまでも科学的な調査に裏付けられた室内空気汚染対策を
 「特定非営利活動法人 シックハウスを考える会 理事長 上原裕之」

 近頃良く耳にする「シックハウス症候群」を94年に発見し、命名し
た上原と申します。最近、シックハウス対策が、医学的、科学的な研究
結果から立てられるよりも、情緒的な圧力から立てられる方向に行政や
政治が偏りつつあることを心配しています。
 このようなことを書くと「業界寄り」という批判を受けるかもしれま
せんが、決してそうではありません。そのような偏向的な人間でないこ
とは、過去2回のシンポジウムで多くの省庁はじめ日本医師会、日本生
協連合会、住宅生産団体連合会などの後援を頂いていること、そして何
より私自身がシックハウスの元被害者であることからも判って頂けるで
しょう。

 93年冬、自宅兼診療所に入居した時から、家族や職員に、「気分が
悪くなる、目が沁みる」などの症状が現れました。94年の春から夏に
かけて症状が強くなったため、眼科の開業医、総合病院、保健所、消費
生活センターなどに当たりましたが原因は突き止められませんでした。
最後に農水省にたどり着いたところ、ホルムアルデヒドという、発ガン
性の可能性があり、アレルギーを引き起こすためにベビー服には検出さ
れてはいけない化学物質が、集成材や合板に大量に含まれていることを
知らされました。
 私は、世の多くの医師、行政、業界の、この問題に関する無関心さに
驚き、国民の生命を守ることを期待されている医師(私は歯科医師です)
の一人として、国民の健康を守るために対話を始めるべきだ、と考えま
した。
 94年9月に自宅の空気測定をした結果、工場なら労働基準監督署が
改善命令を出せる程のホルムアルデヒド濃度が検出されたことを契機に、
週刊誌「アエラ」に取り上げてもらうことになり、その時の内容から、
当時(93年)の合板から出るホルムアルデヒド濃度は、その99%以
上が2ppm程度であることを知って愕然としました。当時、厚生省の
指針値は存在しませんでした。現在の指針値は0.08ppmです。

 その後、様々な方々の救済と同時に、企業や行政内の、根本的に安全
な住環境確保を目指す方々とも話し合いを進めてきました。ところが、
国土交通省の化学物質汚染実態の研究が進むのに対して、人体への影響
に対する調査が一向に進まないことに危機感を覚えました。そんななか、
99年に参議院国土環境委員会、衆議院建設委員会などで私たちの活動
を取り上げて頂いた結果、公的な活動の支援として住宅生産団体連合会
の助成金100万円を受けることができ、私たちの活動に理解を示す大
手住宅関連企業の協力も得て、第1回疫学調査(医師、化学者、建築士
による現場調査)を行いました。引続き、2000年夏には大阪府医師
会、大阪大学、奈良女子大、関西医大などの協力で96件の医学調査を
行いました。これによって、シックハウスの病態が始めて明らかになっ
てきたのです。

 そしてまたその結果、世にシックハウス研究の権威と目されている方
々の発言が事実と異なる、ということも判ってきました。

 例えば昨年、「オブラ」という雑誌で、「シックハウス汚染の最大の
原因は塩ビ壁紙の可塑剤だ」ということが、有識者の発言として取り上
げられていましたが、実際に現場調査を行ったものからすると、これは
恐ろしい思い込みによる、名誉毀損ではないかと考えます。
 実は私たちの調査でも、可塑剤の一つであるDBPが室内空気から多
く検出され、これはやはり塩ビ壁紙の影響かと思い込みかけていました。
ところが、塩ビ壁紙にはDBPは全く使われていない、ということが判
り、誤りに気がつきました。

 思い込みは恐ろしいし、思い込みや風評によって多くの方が被害を受
けると考えた時、行政もマスコミも、思い込みや科学的根拠に基づかな
い主観的な意見や考えを取り上げる時には、よほど慎重にする必要があ
ると痛感した次第です。簡単に言えば、O−157のカイワレと同じで
す。

 今回検出された可塑剤DBPは、壁紙由来ではなく、コーティング材
や接着剤などの、別の材料が原因だったのです。

 多くの、国に関係する有識者までが一緒になって、客観的な調査を伴
わないで、印象で、「塩ビ壁紙」が最も問題だと発言していたとしたら、
彼らを採用した国にも責任が生じます。有識者はあくまでも主観を排除
し、これまでの自らの知識を過信せず、自ら確認した事実を踏まえて発
言すべきだと考えます。

 私は別に壁紙業界に弁護を頼まれているのでも何でもありません。た
だ、国民に影響力を持つ方、自らシックハウスに関して有識者と目され
る方は、その発言の重大さを認識し、あくまでも自ら確認した事実に基
づいて発言すべきだということですし、マスコミの方々にも、肩書きや
本の出版等があるからその方の発言は正しいと安易に信じ込まないこと
が重要だ、と申し上げたいのです。

 一方、塩ビ壁紙に全く問題がないわけではありません。塩ビ壁紙由来
の可塑剤(主としてDEHP)は、壁紙にかなり近づけるか、ものによ
っては接触しないと測定されない程の濃度レベルですが、業界としては
先ず、通常使用においては他のコーティング材や接着剤などに比べはる
かに影響が少ないという事実に甘えず、性能を極端に落とさない範囲で、
より溶出削減を目指すべきですし、それ以上に国民に良くないイメージ
を与えている、「燃やしたらダイオキシン」への対策を一層進め、国民
の過度の恐怖心を取り除く責務はあります。最も、室内の通常使用で燃
やすことは先ずありませんが…。

 ただ、繰り返しますが、シックハウスに関しては、塩ビ壁紙由来の可
塑剤よりも、合板やボード由来のホルムアルデヒドが主たる原因であり、
国土交通省が規制に加えた有機リン系の防虫剤、防腐剤が「横綱」、塩
ビ壁紙から出るDEHPとは桁違いに大量に出ている塗料由来の可塑剤
やVOCが「大関」、であることは間違いありません。

 長くなりましたが、シックハウス問題に限らず、基本的に社会に影響
力を持つ立場の学者や自称有識者と目される方々は、あくまでも自ら確
認した事実に基づいて発言すべきであり、確認できていない場合は最低
限「推測」であることを付言し、もし誤解や誤りに気がついた場合は直
ちに訂正すべきだ、ということを私は言いたかったのです。
 また、本来、国には優秀な学者や、豊富な財源があるのに、財源も身
分や経済的保証もない私たちのようなものがなぜ国に先駆けて、医師や
化学者のボランタリーな協力を受けてまで研究をしなければならないの
か。このことを、国から委嘱を受けた研究者の皆さんはしっかり考えて
いただきたいと思うのです。

 国の研究の遅れが結果として事実と離れた議論を引き起こし、先鋭化
した消費者団体と国とが憶測の議論を繰り返し、もしその憶測が間違っ
ていたら、まじめに取組んできた企業や業界が謂れのない苦しみを負う、
これこそ、「政治、行政、財界、消費者」総ての悲劇ではありませんか。

 シックハウスに関して私たちは2000年度疫学調査報告書を有料
(5000円)ですが頒布しています。興味のある方は下記シックハウ
スを考える会までメールにてご連絡下さい。
優秀な医師や学者が殆どボランティアで国民の生命健康を守るための客
観的な根拠とすべく力を合わせたものです。
 また、今年度も、「安全性が確認された建材を使用して住居をリフォ
ームすることによりシックハウス症候群の患者さんの病態を改善する」
ための研究の準備に入っています。最も進んだ研究に自らも参加したい
と考える方はご連絡下さい。

 次回の関係者会議はもうすぐ、4月14日に東京で行います。
  場所:東京・住友林業(株)21F(21S−03会議室)
  時間:4月14日 13時〜16時
  議題:4月度 医学調査会議

 シックハウスを考える会
 URL:   http://www.sickhouse-sa.com
 E-mail: mailto:peach@sickhouse-sa.com

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☆お知らせ

 ■塩化ビニル産業 日中共同フォーラム

 「開催要領」
   日 時 4月22日(月)終日、4月23日(火)午前中
   会 場 東京厚生年金会館 新宿区新宿5−3−1
   参加費 1名 ¥34,000円
        前記料金には資料代、初日昼食代、お茶代
        晩餐交流会費、消費税などを含みます。
   申込先 化学工業日報社 企画事業局事業グループ
         〒103-8485 東京都中央区日本橋浜町3−16−8
         電話 03-3663-7931 FAX 03-3663-2330

 「講師とテーマ」
  ●第一日目=22日(月)セミナー
  <日本側講師とテーマ>
  「日本における塩ビ工業の現状と展望」
          東ソー 理事 宇田川憲一
  「塩ビ樹脂の需給動向」
          新第一塩ビ 常務 前田宣忠
  「塩ビ工業におけるリサイクルの現状と課題」
          鐘淵化学工業 専務 乾佐太郎
  「塩ビ工業の環境問題と技術開発」
          信越化学工業 環境保安部長 久我直温

  <中国側講師とテーマ>
  「中国の塩ビ工業の現状と展望」
          中国クロロアルカリ工業協会 張国民秘書長
  「WTO加盟、塩ビ関連産業の事業チャンスと展望」
          上海クロロアルカリ化工股分有限公司 李軍総経理
  「中国塩ビ市場(原料・製品、生産能力拡充など)の回顧と展望
          河北滄州化工実業集団 于生春副総経理

  ●第二日目=23日(火)セミナーとパネルディスカッション
  【セミナー】
  「地球環境と塩ビ」
          塩ビ工業・環境協会専務理事 佐々木修一
  「塩ビの魅力と特徴」
          塩化ビニル環境対策協議会 運営委員長 牧野哲哉

  【パネルディスカッション】
    <日本側パネラー>
      東ソー専務(大洋塩ビ社長) 日野清司
      塩ビ工業・環境協会専務理事 佐々木修一
      塩化ビニル環境対策協議会  運営委員長 牧野哲哉
    <中国側パネラー>
      初日講師の3氏

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☆編集後記

  お読みになって、オヤッと思われませんでしたか。そうです。
 今回は名物「巻頭コラム」がないのです。
  サボったのではありません。ネタ切れでもありません。その
 代わり、NPO「シックハウスを考える会」の上原さんからの、
 貴重なご意見を一挙掲載しました。上原さん、有難うございま
 した。
  今後も各界の「有識者」のご意見を折に触れてお届けする予
 定です。ご期待下さい。(H2記)

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[塩ビと環境のメールマガジン]

 発   行  塩ビ工業・環境協会
 編集責任者  佐々木 修一

 塩ビ工業・環境協会     https://www.vec.gr.jp
 塩化ビニル環境対策協議会  http://www.pvc.or.jp