===「塩ビと環境のメールマガジン」 第45号 === 2002/7/25

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目 次

☆巻頭コラム
 「危なくないものを危ないといい、税金を無駄に使わせている
  のは如何なものか」
   名古屋市立大学名誉教授(前同大学学長)伊東信行先生の
   インタビュー記事より

☆塩ビ電線の生みの親(?)真珠湾攻撃
  未だ解けぬ懸濁重合の謎

☆お知らせ

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☆巻頭コラム
 「危なくないものを危ないといい、税金を無駄に使わせている
  のは如何なものか」
   名古屋市立大学名誉教授(前同大学学長)伊東信行先生の
   インタビュー記事より

 のっけからセンセーショナルな見出しで驚かせて申し訳ありません。
むやみに派手派手しく扱うのは本意ではないのですが、たまには一部
週刊誌並みのセリフも使ってみたくなりました。

 とはいえこのセリフ、実はある業界誌のインタビュー記事の見出し
をそのまま借りてきたものでもあります。その記事は、可塑剤工業会、
つまり、塩ビの可塑剤などを製造販売している業界の広報誌「可塑剤
インフォメーション」が今年6月に発行したレポートの中の記事なの
です。
 この広報誌では、上述した名古屋市立大学名誉教授の伊東先生、と
いうよりも、ガン研究における世界的権威の伊東先生、にインタビュ
ーした記事が掲載されており、このなかで、私たちにとって感銘深い
考え方を、先生が披露されているのに出会ったのです。
 すこし、この紙面の言葉を抜書きしてみましょう。

 ○問題なのは、何か事が起きたとき、実際にはさほど危なくない
  のに、大変だ大変だと騒ぎ立てる一部のエセ環境学者やマスコ
  ミ、市民団体などがいることです。この人たちは、騒ぎを煽る
  ことで、有名になるとかお金が集まるといった利益を得ている
  と言われています。そのせいで行政の対応まで誤らせ、どれだ
  け莫大な税金が消費されていることか!その分は皆さん(消費
  者)が気付かずに負担させられているのですよ。

 ○化学物質のリスクの大きさは毒性の強さ×暴露量で表わされま
  す。……環境上や生活上で問題になるのは元々毒性が弱い物質
  ですし、その物質が危険かどうかは“量の問題”それも極めて
  微量の次元での話だといえます。……近年の化学物質と環境の
  問題ではこの“量の問題”を考えていないため、横綱・武蔵丸
  と幼稚園児の強さを同列に論じているような、おかしなことに
  なっているのです。

 ○リスクが例えほんのわずかしかなくても、絶対に許容したくな
  いという一般の感覚もありますが、それは“ゼロリスクの幻想”
  があるからです。しかし、農薬をやめれば食料の生産性が落ち
  るように、ある物質を使うことのリスクだけでなく、“使わな
  いこと”にもリスクがあるので、ゼロリスクの世界はあり得な
  いというのが現実です。……食の安全性だけを見ても、食品の
  グローバル化が進んでいるため、法規制などによるゼロリスク
  を目指した管理は不可能になっています。……これからは「1
  00%の安全」を求めるのをやめ、さまざまなリスクを勘案し
  て、「これぐらいなら、まあ安心」という線引きをしていかな
  ければいけないのだと思います。

 ○化学物質を評価する際は、リスクとともにベネフィット(恩恵)
  をも考慮することが大切です。例えば塩ビは、これまでに多く
  の研究でリスクが明らかにされており、安全だといわれている
  範囲で使用されているのです。一方で、そのリスクとは比較に
  ならないほど多くのベネフィットを持っており、“エコブーム”
  に乗って代替品のリスクもろくに調べずに忌避していいような
  素材ではありません。塩ビを排除し、木材に代えられる部分を
  代替したら、日本の山は丸裸になってしまうでしょう。

 このほか、伊東先生は、ダイオキシン問題について「ダイオキシン
を気にするくらいなら、その前にタバコをどうにかすべし」、研究者
に望む言葉として「不必要に騒動を煽り、“○○で飯を食っている”
“○○で家を建てた”と言われるような研究者にだけはならないで欲
しい」などなど、数々の「名コメント」を発しておられます。
 いずれも、私たちにとって将に、“同感!”の一語に尽きるお考え
です。大変感動させられ、勇気づけられた記事でした。

 この記事の詳細については、可塑剤工業会(下記)へお問い合わせ
ください。
 〒107-0051 東京都港区元赤坂1-5-26 東部ビル4F
  Tel03-3404-4603 Fax03-3404-4604
   HP http://www.kasozai.gr.jp

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☆塩ビ電線の生みの親(?)真珠湾攻撃
  未だ解けぬ懸濁重合の謎

 先々週のメルマガ43号で、塩ビの歴史に関して疑問をひとつ投げか
けました。「塩ビの製造法として、ヨーロッパも日本も、最初は乳化重
合法から始まっているのに、アメリカだけは懸濁重合法を選択している。
何故だろう」というものでした。

 この記事を読んだ複数の方々から、情報が寄せられました。それは偶
然にも、「わが国PVC工業の歴史的概要」と題する、佐伯康治氏の文
献を紹介したものでした。
 この文献中には、「…第二次世界大戦が始まって、米国ではナイヤガ
ラフオールやルイビルでPVCの大量生産が政府主導で行われるが、こ
れは日本の真珠湾攻撃で、軍艦が爆撃以上に破壊されたのは、艦内に張
り巡らされた、当時ゴム被覆であった電気配線の束の火災によることが
分かり、電線被覆に難燃のPVCを用いるべきであるとして、急ぎ政府
によって工業化が促進されたという話が、小山寿の著書でPVCの章の
冒頭に書かれている。それ以後、PVCは電線被覆材として貴重な位置
づけを獲得している。…」とありました。

 さらに、この文中に出てくる、小山寿氏の文献を調べてみると、
「…1941年(昭和16年)12月8日、あの世界中を驚倒させたわ
が海軍の真珠湾攻撃が予期以上の大戦果を収めた原因のひとつは、攻撃
を受けた艦艇の電気配線がゴム被覆線だったので、それをつたわって火
災が防火壁をこえ、各室に延焼していったからである。…」、「その対
策としてアメリカ軍当局は、ただちに塩化ビニル被覆電線の増産を奨励
し、艦艇の不燃化を積極的に進めた。…」という、噂話としての伝聞の
文章が載っていました。

 このこと自体、大変興味深いことです。佐伯康治氏も小山寿氏も、こ
の話の信憑性については必ずしも確信を持っていないようですが、当時
の事情からして充分ありうると思います。
 ただし、この話が事実だとしても、先々週の疑問が完全に解き明かさ
れた訳ではありません。なぜなら、アメリカでは開戦前の1939年か
らグッドリッチ社がナイヤガラで懸濁重合法による塩ビの工業生産を既
に開始しており、アメリカ政府が真珠湾事件の教訓から、懸濁重合法の
研究開発を急がせた、ということではなさそうだからです。
 グッドリッチ社が何ゆえ乳化重合ではなく、懸濁重合を選択したのか?
正解は多分、難燃性の電線被覆を開発ターゲットとして、研究を進めた
からであろう、と思われますが、いまだ決定的な証拠は見つかっていま
せん。

 それにしても、たまたま軍需目的から発展した塩ビ電線ですが、この
技術は連綿と受け継がれて今日に至っており、いまだに難燃性電線被覆
材として、世界中で役立っているわけです。
 前述の佐伯康治氏の文献にも、「これだけの歴史を持つPVC被覆電
線を、最近見られる『脱PVC』として、安易に電線被覆材を他の材料
に転換できるものであるかどうか、再考すべき問題であろう」と書かれ
ています。その通りと考えます。

 引用させていただいた文献
 ○佐伯康治、「わが国PVC工業の歴史的概要」
        化学経済 Vol47 2000年8月号
 ○小山寿、「日本プラスチック工業史」工業調査会
       P287(1967)

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☆お知らせ

 ■「塩ビ樹脂生産・出荷実績表」および「塩ビモノマー生産・出荷
  実績表」をホームページにて掲載しています。
   https://www.vec.gr.jp/data/data.htm

 ■展示会出展予定

  1.「おもしろサイエンス IN ソラール2002」
     7月23日(火)〜8月25日(日)
      山口県防府市青少年科学館 ソラール

  2.「ハウジングフェスタ2002」
     8月2日(金)〜8月4日(日)
      東京ビッグサイト 東3ホール 小間番号36
      (ゆりかもめ 国際展示場正門駅 下車)

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☆編集後記

  久しぶりにパズルをどうぞ。H2がむかしむかし、電
 車の切符を眺めていて考え付いたパズルです。難しいよ。
  4桁の整数の組み合わせをランク付けします。4桁の
 4つの数を一回だけ加減乗除で使って0ができるかどう
 か調べます。できると次は1ができるかどうか調べます。
 次は2、次は3、…と調べていって、nはできるが
 (n+1)はできないとき、その4桁の数のランクをnと
 します。
  そこで第1問:1234のランクはいくつでしょうか?

 ヒント:1+4−2−3=0、1×(2+3−4)=1、
 2+4−1−3=2、…、…、

  第2問:最もランクの高い4桁の数字はどれで、ランク
 はいくつでしょうか? (H2記)

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[塩ビと環境のメールマガジン]

 発   行  塩ビ工業・環境協会
 編集責任者  佐々木 修一

 塩ビ工業・環境協会     https://www.vec.gr.jp
 塩化ビニル環境対策協議会  http://www.pvc.or.jp