NO.135
発行年月日:2007/07/05

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トピックス
◇リスクコミュニケーションとマスメディア
西出徹雄(塩ビ工業・環境協会 前専務理事)

随想

不法投棄は犯罪、社会システムへの挑戦です(連載7)

国際連合大学 上野 潔

お知らせ
【開催報告】伊坪教授のLCA講演会が開催(日本壁装協会主催)
塩ビサイディング・セミナーのご案内

編集後記

トピックス
◇リスクコミュニケーションとマスメディア
西出徹雄(塩ビ工業・環境協会 前専務理事)

 関西テレビ制作の「発掘!あるある大事典2」で放送した納豆ダイエットで数々の捏造が行われ、これ以外にも事実に反する内容が放送されていたことがわかり問題となったのは記憶に新しいところです。消費者が飛びつくような結論を出すためには、根拠となる科学的な事実を都合のよい内容に作り変えても深刻な問題とは考えないという姿勢が一部のマスメディアに存在していることが浮かびあがってきました。またこれを機会に、食の安全や環境問題などに関連する報道においても、事実に反することが注釈もなしに報道されたり、誇大に報道されたりしてきたことが公然と語られるようになりました。

 今年の4月に出版された松永和紀著「メディア・バイアス」/光文社新書と小島正美著「アルツハイマー病の誤解」/リヨン社(かに心書)の二つの本は、これまでメディアの外にいる私たちには見えなかったメディア特有の安全問題や環境問題に関連した報道の特性、偏りなどを、報道する側にあった方が自ら語った内容です。著者はいずれも記者として報道に直接関わった経験を持ち(偶然お二人とも毎日新聞)、これまでの報道記事を引用しながら、「安全情報は人気がない」、「メディアは毒性を重視」、「ベネフィットは小さく報道」、「化学物質の有害性などリスクに関する情報は、メディアというフィルターを通るとそのリスクの大きさが増幅されて消費者に届く」、「マスメディアは、このグレーゾーンをうまく伝えることができません。多種多様な情報の中から自分たちにとって都合の良いもの、白か黒か簡単に決めつけられるようなものだけを選び出し、報道します。」と書いています。また引用が長くなりますが、塩ビに関連して松永さんは次のように書いています。「一つのリスクを軽減したら、別のリスクが大きくなるという現象は「リスクのトレードオフ」と呼ばれ、科学の世界では頻繁に起こります。例としてよく挙げられるのは塩化ビニールです。1990年代、塩化ビニールはダイオキシンの主要発生源と考えられ、不買運動も起きました。たしかに、ゴミとして焼却する場合、塩化ビニールに含まれる塩素が原因となり、条件によってはダイオキシンが発生します。しかし、焼却条件に気を配れば、ダイオキシンの発生を防げます。一方で、塩化ビニールは難燃性が高く、電線被覆などには欠かせないプラスチックでもあるのです。市民団体の中には一時、塩化ビニールを生活のすべての場面から追放し、ほかのプラスチックで代替しようという動きがありました。しかしそれでは、ダイオキシンを完全に封じ込めることができるという点にのみ注目するあまり、火災という比較にならないほど大きなリスクを招いてしまうことにもなりかねません。リスクのトレードオフを考えれば、塩化ビニールを上手に利用することを考えるべきです。さすがに現在は、塩化ビニールをやみくもに追放しようという暴論は聞かれなくなりました。」

 報道する立場からは、危険、問題を強調する記事が歓迎される背景として、危険、問題という記事なら、仮にあとから深刻な問題でないことがわかっても、報道した時点では警鐘を鳴らした意味があったと言うことができるという理由です。しかし、報道の受け手の立場に立てば、警鐘を鳴らしたあとはどうでもよいのではなく、あとから研究された結果が間違っていることが明らかになった場合には、間違っていた、事実はこうだということを改めて報道してほしい、いや報道するのがメディアの責任であると考えます。

 これらの本のように率直な声を聞けるようになってきたのは良いことですが、公共放送の代表であるはずのNHKさんでさえ、教育テレビで放送している「地球データマップ」という番組のホームページを見ると、5月に放送された「第12回汚染される惑星」の「2.恐ろしい化学物質汚染」の冒頭に「化学物質どっぷりの私たちの暮らし」という見出しを付け「化学物質とは、人間が化学的に合成した物質のこと。・・」と平気で書き出しているくらいですから(天然に存在するものも化学物質、つまり人間の体は元々化学物質の固まり)、きっとホームページに掲載する文章を科学的にチェックする仕組みをNHKは持っていないことを堂々と示したいのでしょう。ちなみに塩ビについても「例えば塩化ビニルを燃やすには専用の炉を使わないとダイオキシンという有害化学物質が発生します。」と書いてありますが、塩ビがなくても食品残渣のように塩分を含んだものを燃やせばダイオキシンは発生します。このため既に10年前に廃棄物処理法の改正が行われ、廃棄物焼却施設に対して燃焼条件と排ガス中のダイオキシンが一定濃度以下でなければ排出できないよう基準が設けられました。その結果ダイオキシンの日本全体での排出量は平成9年度に比べて平成17年度は20分の1まで激減しています。特別に「専用の炉」が存在するかのように書くのではなく、対策がどのように進んだかということこそ知らせるべき重要な情報ではないでしょうか。一年ほど前になりますが「ためしてガッテン」という番組で環境ホルモンをテーマにした際にも、『奪われし未来』で取り上げられたイギリスの川魚ローチの雌化の問題について、元々の英国の研究者自身が更に研究を進めた結果、雌化の原因は一部の川以外では「環境ホルモン」ではなく人間や家畜の排泄する尿中に含まれている女性ホルモンそのものによる環境汚染だったことがその後わかったわけですが、こうした新しい事実や魚などの個体の性転換は自然状態でも起こっていることについては一切触れられませんでした。このようにバランスを欠いた番組を作る姿勢を見ても、メディア自らがバイアスを補正する機能がまだ足りないように思います。

 「あるある」のような捏造や、いわゆるトンデモ科学の報道が無くなることを期待しますが、それ以上に警鐘型報道についても後々の検証結果をきちんと報道することが公器としてのマスメディアに期待されることではないでしょうか。(了)

随想
不法投棄は犯罪、社会システムへの挑戦です(連載7)
国際連合大学 上野 潔

 昔からリサイクル処理を考えるとき不法投棄に関する議論がなされています。
家電リサイクルの不法投棄に関しては毎年公表されている環境省のデータを見る限り、急増とは読み取れません。漸減もしくは一定というのが正しいようです。
 しかし、家電製品やパソコンなどの不法投棄の問題は、一般市民が夜隠にまぎれてゴミ集積所や河川敷・道路に投棄する点で、プロの不良廃棄物処理業者が行う大量かつ計画的な産業廃棄物の不法投棄とは性質が異なります。

 最近気になっている論点があります。それは不法投棄が犯罪であることを忘れてその原因を論ずる風潮があることです。一昔前に、犯罪が起きると犯罪者ではなくその社会的背景が重要だとの論議が流行ったことを思い出します。
 犯罪に「良い犯罪」「悪い犯罪」の区別はありませんが、不法投棄は、窃盗や詐欺などの犯罪と異なり、被害者が被害を受けたと言う意識を持ちにくい点で極めて悪質な犯罪です。私は、不法投棄は「麻薬」や「にせ金作り」と同じ種類の重罪だと思います。どちらも、見かけ上は被害者がいなくて、じわじわと社会システムを破壊します。夜中にテレビやパソコンを道路や河川敷に捨てた人は、しばらくして「誰かが片づけた」のを見て「得した」と思い、一般市民も「やれやれ、きれいになった」と思うだけです。ほとんどの人が片づけた費用に、自分の税金が使われたとは思いません。捨てた人は「罪を犯した」という意識がないまま、忘れてしまうでしょう。

 家電製品のようにリサイクル処理料金を排出時排出者負担にするから不法投棄が起こるのだとの主張がありますが本当でしょうか? 処理料金の支払い時期を変えるだけで不法投棄がなくなるのなら簡単です。どのような因果関係があるのか、科学的なデータを基に欧州など先進国の事例も早急に調べる必要がありますが27カ国のなかには日本よりはるかに遅れた国々もありますから簡単ではありません。ここでは、どのようなシステムを採用しても必ず発生する犯罪行為に対して考えてみたいと思うのです。

 不法投棄はやむを得ない(ゼロには出来ない)行為であるから、処理費用は製品を作った「生産者」に負担させよう、との意見も一部の人々から出ています。しかし、不法投棄という「犯罪行為」の処理費用を生産者に拠出させることは、拡大生産者責任に基づく生産者の「処理責任の分担」や「企業の社会的責任」とは異なると思います。野焼きを防げないのでバーゼル条約で塩ビ廃棄物の越境は認められない、塩ビはそもそもなくすべき、という著名な国際的環境団体の主張と同じです。
 生産者が、不法投棄の処理費用を負担すれば、当然その費用は見えない形で「新製品に上乗せ」されます。ルールを守る善良な人々が、不法投棄をする「ずるい人」の処理費用を負担するのです。これは、税金で処理費用を負担することと一見似ていますが、実は根本的に異なります。
 一般消費者は、購入した製品に「不法投棄の処理費用」が含まれている意識がありません。見えないお金には、無関心になります。処理費用を生産者が負担することになれば、自治体は税金によって処理費用を負担する心配がなくなり、不法投棄対策に力を入れなくなります。罰則をいくら厳しくしても、自治体や一般市民が不法投棄に関心を向けなくなれば警察も熱心には取り締まらなくなるでしょう。

 こうして、一般の人々も「不法投棄は犯罪」との意識がなくなり、社会のルールは、「人が見ていなければ」破ったほうが得になります。万引きの蔓延と似ています。麻薬やにせ金作りが社会システムを知らない間に破壊するのと似ています。
 不法投棄は社会のルールを無視した犯罪行為ですから、人々がもっと怒ることが必要です。そして、不法投棄を見つけた市民は断固として通報することが必要だと思います。自治体は不法投棄の処理費用が税金であることを現場でも広報し、「この費用に住民税をいくら使用しました」との実態を住民に公開することも必要だと思います。ルールを守った人々の怒りが不法投棄をなくす一番の方法だと思います。(了)

前回の「一流の技術者とは?−(連載6)」は、下記からご覧頂けます。
https://www.vec.gr.jp/mag/130/index.html#zuisou

お知らせ
【開催報告】伊坪教授のLCA講演会が開催(日本壁装協会主催)

 日本壁装協会はさる6月25日に武蔵工業大学・環境情報学部・環境情報学科 伊坪徳宏准教授を招聘してLCAに関する講演会を開催した。
 タイトルは『ライフサイクル環境影響評価手法(LIME)−概要と利用方法−』で、特に伊坪准教授が中心になって開発したLIME(Life -cycle Impact assessment Method based on Endpoint modeling)という環境影響評価手法とその実施事例が解説された。
 産業界ではLIME(ライム)手法で自らの製品の環境性の評価を実施し、サプライチェーンや消費者へ開示するようになってきている。同協会のみならず塩ビ加工の各分野においても、製品や工法の環境影響を科学的に評価し、いっそうの改善に結びつけていくことが期待されている。

塩ビサイディング・セミナーのご案内

 樹脂サイディング普及促進委員会では、下記のセミナーに参加し、塩ビサイディングの紹介を行います。

◇環境を考えた北海道の住宅づくり In 札幌
 
・日 時: 2007年7月9日(月)
13:30〜17:00(受付開始 13:00)
・場 所:

札幌市産業振興センター
札幌市白石区東札幌5条1丁目

・主 催: (株)日建新聞社
・参加費: 無料(定員:先着100名)
・お問い合わせ:(株)日建新聞社・編集部
電話:011(726)3138

◇中国地方で要求されるセミナー In 岡山
 
・日 時: 2007年7月13日(金)
13:00〜17:00(受付開始 12:30)
・場 所: 岡山国際交流センター 2F 国際会議場
岡山市奉還町2−2−1
・主 催: 住まいづくり研究会
・後 援: (社)岡山県建築士会【CPD制度認定講習】
・参加費: 無料(定員:先着150名)
・参加申込み締切り:7月7日(土)
・お問い合わせ:住まいづくり研究会
電話:092(871)2409


編集後記
 すっきりしない梅雨空のもと蒸し暑い毎日が続いておりますが、早いもので今年のカレンダーも半分が終わりました。各企業、団体におかれましては決算や総会といった上半期の大仕事を無事乗り切り、ほっとしておられる方も多いのではないかと思います。特に、今年は新会社法施行後初めての決算を迎えられたこともあり、例年に比べご苦労されたのではないでしょうか。
 ご存じのとおり、新会社法はコンプライアンスをより重視した体系となっており、経営における透明性や内部統制の強化を図ることを目的としております。ところが、最近報道された“牛ミンチ偽装”事件は、経営トップの指示によるコンプライアンス違反の可能性が高く、内部統制が全く機能していなかったように思われます。こう言った企業事件は近年多発しておりますが、根底にあるのは、“バレなければあるいは法に触れなければ何をしてもよい”という倫理観の欠如ではないでしょうか。
 トピックスで紹介された“マスメディア”もその例外ではないと思います。誤った報道や誤解に基づく報道の社会的影響は計り知れないものがあります。報道内容をチェックする社内体制や基準を明確にして責任ある報道姿勢を社会に示して欲しいものです。(樹)

VEC関連URL
●家族で学べるページ https://www.vec.gr.jp/kids_new/index.html
●塩化ビニル環境対策協議会 http://www.pvc.or.jp/
●樹脂サイディング普及促進委員会 http://www.psiding.jp/
●樹脂サッシ普及促進委員会 http://www.jmado.jp/
●メールマガジンバックナンバー https://www.vec.gr.jp/mag/index.html

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