NO.140
発行年月日:2007/08/09

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トピックス
◇文献から見た塩ビ樹脂の火災時の安全性

随想

DFDは誰のため?(連載8)

国際連合大学 上野 潔

お知らせ
世界ビニルフォーラムの詳細プログラム決定

編集後記

トピックス
◇文献から見た塩ビ樹脂の火災時の安全性

 今週は、先週に引き続き塩ビ建材の復権と発展をめざして、塩ビ工業・環境協会と塩化ビニル環境対策協議会が作成した「塩ビの火災時の安全性」という冊子の概要について説明します。
 【塩ビの防火性と火災時の安全性−火災から身を守る「塩ビ」−】は、2000年に作成された技術資料の改訂版です。塩ビは燃えにくい素材であることから、電線の被覆材としてゴムや紙の代替材として第一次世界大戦下のドイツで使われたことはよく知られた話ですが、文献的にもそのことが裏付けられています。そのいくつかを紹介すると次の通りです。

 火災時の安全性ということは、燃えにくい、燃えても燃え広がりにくい、燃えても有毒なガスを発生しないなどのいろいろな要件が考えられます。火が近づくとたいていのものは着火します。この着火温度が低ければ低いほど火災の危険性が大きくなります。塩ビの着火温度は450℃ぐらいで紙や木材あるいは他のプラスチックと比べても着火温度が高く、燃えにくい材料であることがわかります。次に重要なことは、燃焼が始まった後の燃焼の持続性や燃え広がり易さがどうかということです。その燃焼が持続しやすいほど火災へと発展する危険性が高いこととなります。燃焼の持続性を評価する方法として、酸素指数試験というものがあります。燃焼を持続するための必要酸素濃度を表したもので、空気中の酸素は21%ですから、酸素指数21以上のものは燃焼を持続させるためには、空気中より多くの酸素が必要であるということを意味します。すなわち、酸素指数の値が大きいものほど、燃焼の持続性がないいわゆる自己消火性材料ということになります。塩ビ(硬質)の酸素指数は45〜49と大きな値を示します。また、表面燃焼性(延焼指数)や火災延焼率指標値というデータからも塩ビは燃焼が拡大しにくい材料であることが示されています。

 消防白書によれば、平成17年の火災により1559名の方が尊い命を落としているそうです。死亡者の57%は逃げ遅れが原因であり、そのうちの4割の人が「発見が遅れ、気づいた時には火煙が回り、既に逃げ道がなかった」という状況にあったそうです。塩ビが燃えた場合の煙の発生はどうでしょうか?プラスチック建材は、一般に煙が発生し易く見通しを悪くし呼吸困難にするなど被災者の安全な避難を困難にします。塩ビの発煙性は、他の汎用プラスチックの1/10程度とされています。
 火災時発生物には、多種類のガス状物質や微粒子が含まれますが、その組成は燃焼する材料ばかりでなく温度や酸素の供給状態などにより大きく変化します。二酸化炭素と一酸化炭素はどのような材料でも発生しますが、塩ビの燃焼による一酸化炭素の生成量はポリエチレンやポリプロピレンに比べて少ないことが報告されています。また、材料によっては、シアン化水素やアルデヒド類が発生しますが、塩ビに特徴的な発生ガスは塩化水素です。この塩化水素は刺激性が強いため、わずか0.8ppmという低濃度の発生量で臭いを感知でき火災雰囲気からの脱出信号の役目を果たすといわれています。消防白書の死亡原因の解析にもあるように、実規模の火災実験の観察でも、点火後まもなく一酸化炭素は致死濃度に達することから毒性ガスの中で一酸化炭素による毒性寄与が一番大きいことが示されています。一方、シアン化水素は致死濃度を超えて発生しているのに対し、塩化水素は致死濃度を超えて発生することはないことも観察されています。

 以上のように、このたびまとめられた技術資料の中ではいろいろな面から塩ビの火災時の特性が紹介されています。近くVECのホームページに掲載する予定ですので、是非ご覧ください。(了)

先週の『塩ビと建設材料』のご紹介は、こちらからご覧頂けます。
https://www.vec.gr.jp/mag/139/index.html#topics

随想
DFDは誰のため?(連載8)
国際連合大学 上野 潔

 3R(Reduce, Reuse, Recycle)の普及に伴ってDFD(design for Disassembly;易分解性設計)の考え方が普及しています。DFDの進展は使用済みになった製品をリサイクルするときに有効であるだけでなく、最近はリユースのために部品やコンポーネントを取り出し易い設計が良いとされているのです。おりしも産業構造審議会では資源有効利用促進法(3R法)の改定が議論されています。

 しかしDFDには大きな前提があります。製品を分解するのはリサイクルプラントや修理技術者など専門家が作業することです。DFDは一般消費者が作業するためではなくプロのリサイクル作業者のためなのです。
 皆さんは、冷蔵庫やテレビを自宅で分解したことがありますか?
 50年以上前は半田ごてを使って壊れた真空管式ラジオを修理すると尊敬されたものでした。部品を購入してラジオを組み立てるラジオ少年もいました。(私の頃はゲル検トラ1などの時代でしたが、ふふふっ!今の若い人は判るかな?)
 今では、修理技術者の資格を持った人でも、プリント基板ごと交換します。早くて簡単です。最新の薄型テレビのバックカバーを外して中を見たことはありますか?(どうか勝手に開けないでください)
 製品はますます高度化し、他方で昔のように製品の原理や構造に詳しい人はいなくなりました。分離分解の容易な製品がかえって危険である場合が多いのです。
 電気電子製品では、カバーをあけると「高電圧危険」というラベルが貼られたコンポーネントがあります。中には「分解しないでください」と書かれた注意ラベルがある場合もあります。
 電気電子製品は、車のように運転免許証も不要で、老人から子供、体の不自由な人や外国人までが使用します。メンテナンスフリーで少しでも寿命が長く性能が維持される製品が望まれます。リモコンの電池や掃除機の紙パック、プリンターのカートリッジなどを交換することはあっても製品を分解することは無いはずです。冷蔵庫やテレビのコンセントは購入した時から排出するまで、ほとんどの家庭が差し込んだままだと思います。(時々コンセントを抜いて埃の除去などの掃除が必要なのですが)
 パソコンのHDD交換やメモリー増設程度は自分でする人が増えていますが、これは修理ではないと思います。

 設計者は製品の機能やコストに加えて、使用する人の安全を最優先して設計します。安全に関しては細かく法規制で定められている部分もありますが、何よりも一番の安全は不適正修理が行えないようにすることです。高電圧がかかる部品や可燃ガスの制御回路を一般の人が分解修理をすると感電や火災、不測の事故などの原因となり危険です。そのためには、部品を樹脂でモールドしたり、ねじ部分を隠したり、特殊なねじを使用したりします。これらはDFDとは逆の発想です。

 先日ある大学院の講座で、DFDの実習をしました。対象製品は計量器でした。実売価格は千円程度で、製造は中国ですが設計は日本の一流メーカーです。
 DFDの実習ですから実際のリサイクルプラントとは異なり、徹底的に分解し受講生でグループ討議をしてDFDの課題と改善案を抽出する演習です。他の部分は比較的簡単に分解できたのですが、どうしても標準工具では外せない部分がありました。それは堅固な板で守られ、トルクの強い六角穴付きボルトで取り付けられていました。計量器にとって心臓部のロードセルです。
 ここを消費者に触られ、不適正修理をされたら計量器としての信頼性がなくなるためでしょう。周辺は簡単に分解できても心臓部は触りにくい。簡単な製品でも設計者の苦心の気持ちが伝わります。

 車は法令により運転する前に日常点検整備が義務付けられています。しかし、今はバッテリーも密閉されメンテナンスフリーです。プラグやオイルエレメントも車検まで交換しなくてすみます。購入以来ボンネットを開けたことが無い所有者も増えました。それにボンネットを開けてもどこにエンジンがあるのかわからないほどぎっしりと電装品やカバーに囲まれています。車は車体検査もあり、プロによってメンテナンスされているためか、設計者はDFDに対しても少し異なる対応をしているようです。

 使用済み製品がプロのリサイクル処理部門に渡ったときは、どこにねじがあるか判るほうが良いし、特殊工具では無く標準工具で分解できるほうが便利です。プラスチックの材質表示マークも重要です。今後は高価なレアメタルや、破砕すると回収が困難な磁性部品などにも特別なマークが要求されるでしょう。塩ビと他のプラスチックが混在しないような工夫や、鉄と銅は分離分解し易い構造が必要です。分離分解に時間がかかり、有価物が分離しにくい製品は、リサイクルのプロからは敬遠され、いずれは市場から淘汰されるでしょう。

 欧州WEEE(廃電気電子機器)指令では、リサイクル業者から要請があれば生産者は指定された化学物質がどこに含まれ、どのように外すのかを、開示することになっています。プロの処理業者にとって汚染の拡散は致命的だからです。しかし一般の人が製品を分解することは想定していません。
 DFDが適用された製品は、3Rを配慮したエコ製品です。消費者にはぜひ、そういう製品を率先して購入していただきたいと思います。電気電子製品も、車も、最終的には全て消費者が選択するのです。そのために生産者はどの部分がDFDになっているかを説明する責任があります。同時にリサイクルのプロから、どの会社の製品がリサイクルしにくいかについての情報発信も重要になります。
 しかし実際に製品を分離分解するのは、プロに任せることが必要です。DFDはプロのため、そして最終的にはそれが消費者のためになるのです。
 将来ますますDFD手法が進展することを期待します。(了)

前回の「不法投棄は犯罪、社会システムへの挑戦です(連載7)」は、下記からご覧頂けます。https://www.vec.gr.jp/mag/135/index.html#zuisou

上野潔様の連載のバックナンバーは、以下のアドレスからご覧頂けます。
https://www.vec.gr.jp/mag/index.html


お知らせ

世界ビニルフォーラムの詳細プログラム決定

 9月米国ボストンで開催される世界ビニルフォーラム(World Vinyl ForumIII)の第二次開催案内がウェブ上に公開されました。
http://guest.cvent.com/EVENTS/Info/Agenda.aspx?e=e54b1463-74fc-4c18-867a-dd4856c8bebb
 会議は、9月26日のwelcome receptionに始まり、世界のビジネス環境と塩ビ産業の過去・未来について意見交換が行われるほか、塩ビ製品の製品開発やプロモーション活動状況、電子・電気業界の塩ビに関する話題やグリーンビルディングに関する講演が予定されています。27日と28日は展示会も同時開催されることから、デザイン性を活かした塩ビ製品の展示や情報交換が行われるものと期待されます。
参加の申し込みはウェブからどうぞ。

編集後記
 随想で、真空管式ラジオを修理なさったお話がありましたが、私の父も昔、電気製品の調子が悪くなると、半田ごてを使って修理していました。鉛半田の板が溶けてきらきら光る滴となって銅線をくっつけていくのが面白く、覗き込むように見ていたのを覚えています。松脂の煙のにおいも懐かしいです。
 暦の上では立秋とはいえ、まだまだ暑さが続きますね。来週、本メールマガジンは夏休みをいただきます。皆様も(時期はいろいろでしょうが)良い休暇をお過ごしくださいませ。(漠)

VEC関連URL
●家族で学べるページ https://www.vec.gr.jp/kids_new/index.html
●塩化ビニル環境対策協議会 http://www.pvc.or.jp/
●樹脂サイディング普及促進委員会 http://www.psiding.jp/
●樹脂サッシ普及促進委員会 http://www.jmado.jp/
●メールマガジンバックナンバー https://www.vec.gr.jp/mag/index.html

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