3R(Reduce, Reuse, Recycle)の普及に伴ってDFD(design for Disassembly;易分解性設計)の考え方が普及しています。DFDの進展は使用済みになった製品をリサイクルするときに有効であるだけでなく、最近はリユースのために部品やコンポーネントを取り出し易い設計が良いとされているのです。おりしも産業構造審議会では資源有効利用促進法(3R法)の改定が議論されています。
しかしDFDには大きな前提があります。製品を分解するのはリサイクルプラントや修理技術者など専門家が作業することです。DFDは一般消費者が作業するためではなくプロのリサイクル作業者のためなのです。
皆さんは、冷蔵庫やテレビを自宅で分解したことがありますか?
50年以上前は半田ごてを使って壊れた真空管式ラジオを修理すると尊敬されたものでした。部品を購入してラジオを組み立てるラジオ少年もいました。(私の頃はゲル検トラ1などの時代でしたが、ふふふっ!今の若い人は判るかな?)
今では、修理技術者の資格を持った人でも、プリント基板ごと交換します。早くて簡単です。最新の薄型テレビのバックカバーを外して中を見たことはありますか?(どうか勝手に開けないでください)
製品はますます高度化し、他方で昔のように製品の原理や構造に詳しい人はいなくなりました。分離分解の容易な製品がかえって危険である場合が多いのです。
電気電子製品では、カバーをあけると「高電圧危険」というラベルが貼られたコンポーネントがあります。中には「分解しないでください」と書かれた注意ラベルがある場合もあります。
電気電子製品は、車のように運転免許証も不要で、老人から子供、体の不自由な人や外国人までが使用します。メンテナンスフリーで少しでも寿命が長く性能が維持される製品が望まれます。リモコンの電池や掃除機の紙パック、プリンターのカートリッジなどを交換することはあっても製品を分解することは無いはずです。冷蔵庫やテレビのコンセントは購入した時から排出するまで、ほとんどの家庭が差し込んだままだと思います。(時々コンセントを抜いて埃の除去などの掃除が必要なのですが)
パソコンのHDD交換やメモリー増設程度は自分でする人が増えていますが、これは修理ではないと思います。
設計者は製品の機能やコストに加えて、使用する人の安全を最優先して設計します。安全に関しては細かく法規制で定められている部分もありますが、何よりも一番の安全は不適正修理が行えないようにすることです。高電圧がかかる部品や可燃ガスの制御回路を一般の人が分解修理をすると感電や火災、不測の事故などの原因となり危険です。そのためには、部品を樹脂でモールドしたり、ねじ部分を隠したり、特殊なねじを使用したりします。これらはDFDとは逆の発想です。
先日ある大学院の講座で、DFDの実習をしました。対象製品は計量器でした。実売価格は千円程度で、製造は中国ですが設計は日本の一流メーカーです。
DFDの実習ですから実際のリサイクルプラントとは異なり、徹底的に分解し受講生でグループ討議をしてDFDの課題と改善案を抽出する演習です。他の部分は比較的簡単に分解できたのですが、どうしても標準工具では外せない部分がありました。それは堅固な板で守られ、トルクの強い六角穴付きボルトで取り付けられていました。計量器にとって心臓部のロードセルです。
ここを消費者に触られ、不適正修理をされたら計量器としての信頼性がなくなるためでしょう。周辺は簡単に分解できても心臓部は触りにくい。簡単な製品でも設計者の苦心の気持ちが伝わります。
車は法令により運転する前に日常点検整備が義務付けられています。しかし、今はバッテリーも密閉されメンテナンスフリーです。プラグやオイルエレメントも車検まで交換しなくてすみます。購入以来ボンネットを開けたことが無い所有者も増えました。それにボンネットを開けてもどこにエンジンがあるのかわからないほどぎっしりと電装品やカバーに囲まれています。車は車体検査もあり、プロによってメンテナンスされているためか、設計者はDFDに対しても少し異なる対応をしているようです。
使用済み製品がプロのリサイクル処理部門に渡ったときは、どこにねじがあるか判るほうが良いし、特殊工具では無く標準工具で分解できるほうが便利です。プラスチックの材質表示マークも重要です。今後は高価なレアメタルや、破砕すると回収が困難な磁性部品などにも特別なマークが要求されるでしょう。塩ビと他のプラスチックが混在しないような工夫や、鉄と銅は分離分解し易い構造が必要です。分離分解に時間がかかり、有価物が分離しにくい製品は、リサイクルのプロからは敬遠され、いずれは市場から淘汰されるでしょう。
欧州WEEE(廃電気電子機器)指令では、リサイクル業者から要請があれば生産者は指定された化学物質がどこに含まれ、どのように外すのかを、開示することになっています。プロの処理業者にとって汚染の拡散は致命的だからです。しかし一般の人が製品を分解することは想定していません。
DFDが適用された製品は、3Rを配慮したエコ製品です。消費者にはぜひ、そういう製品を率先して購入していただきたいと思います。電気電子製品も、車も、最終的には全て消費者が選択するのです。そのために生産者はどの部分がDFDになっているかを説明する責任があります。同時にリサイクルのプロから、どの会社の製品がリサイクルしにくいかについての情報発信も重要になります。
しかし実際に製品を分離分解するのは、プロに任せることが必要です。DFDはプロのため、そして最終的にはそれが消費者のためになるのです。
将来ますますDFD手法が進展することを期待します。(了)
前回の「不法投棄は犯罪、社会システムへの挑戦です(連載7)」は、下記からご覧頂けます。https://www.vec.gr.jp/mag/135/index.html#zuisou
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