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製造時のLCIデータ

ライフサイクルアセスメント:数値でみた塩ビの環境特性

 ライフサイクルアセスメント(LCA)は、製品・サービスに対する原料採取から製造、使用及び廃棄に至るまでの製品のライフサイクル全体の環境への負荷(資源やエネルギーの消費、CO2排出などの環境負荷物質など)を定量的に評価する手法です。環境保護の重要性及び製造され消費される製品に付随する影響に対する意識が益々高くなっています。私たちはこのLCAデータの構築にも積極的に取り組んでいます。

 製品・サービスに関するライフサイクル(製造、使用、廃棄)の各工程で消費された資源、工ネルギー量、CO2排出量などLCA手法によって定量化された各種環境負荷をライフサイクルインベントリ(LCI)といいます。LCA評価が正しく行われるためには適切なLCIデータを整備し、提供することが重要です。

  1. 塩ビ樹脂は製造時のエネルギー消費や環境負荷が少ない素材です。
  2. 塩ビ製品への加工は、樹脂製造に比べて、環境負荷の少ない工程です。
  3. 塩ビ製品はマテリアルリサイクル適性の優れた素材です。
  4. 塩ビ製品のマテリアルリサイクルは、ライフサイクルGHG排出量の大半を占める樹脂製造に由来する分を大幅に削減することができます。

1.塩ビはエネルギー消費や環境負荷が少ない素材:そのLCIデータ

 代表的な汎用樹脂のLCIについて、「(一社)プラスチック循環利用協会(旧:(社)プラスチック処理促進協会)」がまとめた比較データによると、石油採掘から樹脂製造段階までの工程エネルギーは22.3~30.0 MJ/kgで、各種樹脂間にそれほど大きな差異はありません。しかし資源エネルギーについては、石油からの炭化水素を主とする樹脂が45.6~46.5MJ/kgであるのに対して、その重さの半分を超える割合を塩素が占める塩ビは21.3MJ/kgと他樹脂の半分以下であり、負荷が少ないことがわかります。塩ビの工程、資源の合計エネルギー負荷(46.1MJ/kg)は、包装材料によく用いられる低密度ポリエチレン(LDPE)(72.2MJ/kg)の64%となり、塩ビ樹脂は、エネルギー負荷の最も少ない優れた素材といえます。(図1上)

 塩ビ樹脂の環境負荷をみると、CO2は1.45kg/kg、NOxは2.43g/kg、SOxは2.17g/kgで、CO2は他の汎用樹脂に比べて総じて低く、特にNOx、SOxでは汎用樹脂の中で最も低いレベルにあります。(図1下)

図1.汎用樹脂製造のLCIデータ

汎用樹脂製造のLCIデータ
出典:(一社)プラスチック循環利用協会「石油化学製品のLCIデータ調査報告書」2009.3

2.塩ビ製品の加工段階でのGHG排出量は総じて小さい:塩ビ管、農業用フィルムのLCIデータ

 塩ビ製品の代表的なものとして、塩ビ管、農業用フィルム(農ビ)があります。LCA手法を用いて、これらの1次加工品の温室効果ガス(GHG)排出量を算定しました。

 塩ビ製品は塩化ビニル樹脂を主原料に製造されます。塩化ビニル樹脂の原料であるモノマーはエチレンと塩素から合成されます。エチレンは石油精製後に得られるナフサから製造されており、出発原料は原油です。一方、塩素は水酸化ナトリウムを製造する電解設備の副生物で出発原料は工業塩です。

 原料調達段階から塩ビ製品を製造するまでの製造フロー(システム境界)は図2のとおりです。

図2.塩ビ製品の製造フロー(システム境界)

塩ビ製品の製造フロー(システム境界)
【略語】
EDC:二酸化エチレン (ethylene dichloride)
VCM:塩化ビニルモノマー (vinyl chloride monomer)
PVC:ポリ塩化ビニル (polyvinyl chloride)

 LCA手法を用いて算定した塩ビ製品を製造するまでのGHG排出量は、塩ビ管*1)が1.67kg-CO2eq/kg、農業用フィルムが2.56kg-CO2eq/kgとなります。(2021年11月時点)
 *1)直管VU200

※補足
1)GHG排出量の単位(kg-CO2eq/kg)に付与されているeqはequivalentの略で、7つの温室効果ガス(CO2、メタン、N2O、ハイドロフルオロカーボン類等)の排出量に地球温暖化係数(Global Warming Potential:GWP)を乗じて合算した数字です。
2)加工段階については「塩化ビニル環境対策協議会」による2010年調査報告書をもとに、2021年11月時点のデータを用いて計算しています。なお、原料輸送はトラック輸送10t車、距離を200kmに設定しています。

図3.塩ビ加工製品のLCIデータ

システム境界:原料調達~樹脂加工まで

代表的塩ビ加工品のLCIデータ
  • 原料調達〜原料製造段階
  • 樹脂加工段階(輸送含む)
出典:塩化ビニル環境対策協議会資料(2010年3月)を基に塩ビ工業・環境協会作成(2022年3月)

 プラスチックの成形加工に使うエネルギー消費は電力に起因するものが主であり、GHG排出量も電力の消費量に大きく依存します。しかし、押出加工とカレンダー加工では、主とするエネルギーが異なります。押出加工(塩ビ管)は主に電力を使用し、カレンダー加工(農業用フィルム)は蒸気を熱源とする割合が大きいため、この違いによってGHG排出量も違ってきます。

 一般にプラスチック製品では、図3のデータが示すように原料樹脂の製造までのGHG排出量に比べて、樹脂を加工してプラスチック製品にするときのGHG排出量の方がはるかに小さいのです。