塩ビのMR事例紹介
塩ビのマテリアルリサイクル(MR)事例紹介
一般にプラスチックのマテリアルリサイクルは、元の製品に再生利用するいわゆる水平リサイクルが望ましいのですが、そのためには精緻な分別、選別が要求され、結果的に高いコストと環境負荷を伴います。しかしながら塩ビは他の汎用プラスチックに比べ、異物混入の影響も小さくマテリアルリサイクルの容易な素材で、様々なマテリアルリサイクルが既に実施されています。パイプ、タイルカーペットなどの用途で水平リサイクルがなされており、これまで困難とされてきた複合製品についても分離技術の進展でマテリアルリサイクルが事業としてスタートしています。以下その事例を幾つか示します。
表1. 既存及び新規技術によるマテリアルリサイクルの代表的な事例
塩ビ製品 | リサイクル概要 | 再生用途 | 関連業界団体、企業 |
---|---|---|---|
パイプ | 廃パイプをリサイクル拠点で粉砕 | パイプ | 塩化ビニル管・継手協会 |
農ビ | 洗浄、破砕処理後、再生樹脂に転換 | 床材 | 農業用フィルムリサイクル促進協会 |
床材 | 新築施工端材、余材回収、粉砕加工 | 床材 | インテリアフロア工業会 |
壁紙 | 高速叩解技術により微粉化し、塩ビ層を分離回収 | 成型材料 | (一社)日本壁装協会 |
サッシ | 使用済みサッシを解体し、樹脂部分をサッシに | サッシ | (一社)日本サッシ協会、樹脂サッシ工業会 |
PTP | 高温攪拌処理により塩ビとアルミを分離 | 床材など | 大同樹脂(株) |
タイルカーペット | 複合品を粉砕、チップ化 | タイルカーペット | 東リ(株)、長谷虎紡績(株) |
タイルカーペット | 精密切削粉砕加工により塩ビ層を分離回収 | タイルカーペット | リファインバース(株) |
1. 各業界団体および民間会社による分別排出品のMR事例
1
管・継手(パイプ)・・・<単体製品 分別(選別)排出>
「塩化ビニル管・継手協会」は、1998年から全国に受入窓口を設け、資源循環型社会を創造する一環リサイクルシステムを構築してマテリアルリサイクル(パイプからパイプへ)を推進しています。このため、全国の「リサイクル協力会社」clmsmpl_2clmと連携して受入拠点を整備し、使用済み塩化ビニル管・継手を受け入れた後に、会員会社・協力会社において三層管・REP管などのリサイクル管を製造し、販売しています。
図1. 塩ビ管・継手のリサイクル受入量の推移(年度)

図2 塩ビ管・継手のリサイクルシステム

2
農業用ビニルフィルム(農ビ)・・・<単体製品 分別排出>
施設園芸協会の指導の下に農家、農業団体、地方自治体等の関係者で構成された協議会による組織的な分別回収のしくみが機能しています。また、農ビメーカーと全国農業協同組合連合会(全農)は「農業用フィルムリサイクル促進協会(NAC)」を設立してリサイクルを推進しています。全国10数ヶ所のリサイクル拠点で再生処理され、床材、履き物、シート類等の原料として再生利用されており、2012年度のリサイクル量は排出量の約74%に相当します。
図3 農ビリサイクルの推移(年度)

図4 農ビリサイクルシステム

3
床材(長尺シート、クッションフロア、ホモジニアスタイル)・・・<複合製品 分別排出>
塩ビ床材は、使用済みの農ビフィルムや電線被覆材を原料の一部として利用しており、塩ビリサイクルの重要な受け皿になっています。床材メーカー6社で構成する「インテリアフロア工業会」は長尺シート、クッションフロアおよびホモジニアスタイルを対象に新築現場の施工端材や余材を回収し、粉砕処理した後、床材メーカー各社で床材にリサイクルする分別回収と水平リサイクルを併せたモデル事業を進めています。
図5 床材リサイクルモデル事業

4
壁紙(高速叩解技術によるマテリアルリサイクル)・・・<複合製品(壁紙ほか)分別排出品>
塩ビ壁紙に強力な遠心叩解力を与え、表面の塩ビ樹脂層を粒径100~300μの微粉に、パルプ層を数mmのファイバーに微細化することで、樹脂とパルプの強固な接着界面を分離し、同時に比重差を利用して塩ビ樹脂層とパルプ層を分離回収する技術がアールインバーサテック株式会社で開発されてきました。
その後、この新リサイクル技術は新和環境(株)に譲渡され、塩ビ壁紙からのリサイクル事業としてスタートしています。
更に、この技術は塩ビ壁紙だけでなく、防水シート、仮設工事用シートなど、樹脂と繊維の複合物にも適用可能で、これまでリサイクルが困難であった塩ビ複合製品のリサイクルに幅広く適用できる可能性をもつ技術です。
図6 接触界面模式図

図7 内部回転体

図8 叩解装置

5
サッシ(窓枠)・・・<複合製品 分別排出>
サッシは市場の歴史が浅く長寿命であるため、使用済み製品の排出量は現状ではまだ少ないが、今後の排出量の増加に備え、普及の進んでいる北海道で「樹脂サッシ工業会」、「日本サッシ協会」、「塩ビ工業・環境協会」の3者が共同でサッシリサイクルシステムの構築を進めています。建築解体現場から排出されたサッシは異物除去等の前処理をした後、粉砕されて、サッシ生産工場に送られ、サッシの原料として再生利用されます。
図9 サッシリサイクルモデル事業

6
PTP(Press-Through-Pack) ・・・<複合製品、分別排出>
PTPとはプラスチックシートにアルミ箔を貼り合わせたもので、カプセル剤や錠剤などの医薬品の包装材として広く使われています。このプラスチックシートとして最も一般的なのが塩ビです。
大同樹脂(株)(長野県下伊那郡)は高温ドラム内の摩擦熱でPTPを一次分離し、さらに、ドラム内に取り付けられた回転刃で叩きながら塩ビとアルミに完全分離しています。分離された再生塩ビは、透明で高品質なので自動車用マット、文具などに使われています。
図10 PTP分離粉砕工程

7
タイルカーペット・・・<複合製品 分別排出>
①東リ株式会社 TTRシステム
表面の繊維層、ポリエステルなどの基布層、塩ビのバッキング層からなるタイルカーペットを素材別に分離することなく、一緒に粗粉砕、チップ化し、タイルカーペットのバッキング層として再生利用するリサイクルシステム(TTRシステム)が滋賀東リカーペット株式会社で構築され、2001年より実用化されています。処理しにくい複合材を各素材に分離することなく、一体処理でまるごと有効利用するシステムです。
図11 タイルカーペットリサイクルシステムフロー図
②長谷虎紡績株式会社 エコセービングサイクル
オフィスビルから産業廃棄物として排出されるタイルカーペット廃材を再生利用するシステム(エコセービングサイクル)が長谷虎紡績株式会社の手で構築されています。タイルカーペット廃材は破砕、粉砕され、同社のタイルカーペット(エコセービングサイクルタイルカーペットとしてエコマーク認定取得)に再生利用されています。
図12 タイルカーペット再生加工の流れ
8
タイルカーペット(精密切削粉砕加工技術によるマテリアルリサイクル)
・・・<複合製品(タイルカーペット)分別(選別)排出品>
オフィスビルの施工現場や中間処理事業者から排出される使用済みタイルカーペット塩ビ層の再資源化の取組みがリファインバース株式会社の手で取り組まれています。タイルカーペット裏地に使用されている塩ビ層のみを精密に削り取り、細粉の形で分離、回収し、再度タイルカーペットの材料として再生利用するもので、2006年より同社千葉工場で年間18,000トンの規模で事業化されています。この量はタイルカーペット総排出量の約15%に匹敵します。
図13 精密切削粉砕加工フロー

図14 タイルカーペット再資源化
