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レスポンシブル・ケア

 塩化ビニル樹脂(ポリ塩化ビニル/PVC)は、エチレンと塩素を原料とし1,2-ジクロロエタン(二塩化エチレン/EDC)を製造、1,2-ジクロロエタンを熱分解することによりクロロエチレン(塩化ビニルモノマー/VCM)を製造、クロロエチレンを重合することによって得られます。
 中間原料である1,2-ジクロロエタン、クロロエチレンはそのほとんどが塩化ビニル樹脂製造工程において使用されていますが、塩ビ業界では古くからレスポンシブル・ケアの精神に則りその排出削減に取り組んでいます。以下にその概要を紹介します。

1.1,2-ジクロロエタン(二塩化エチレン/EDC)

 1,2-ジクロロエタンはエチレンと塩素から製造されており、その多くがクロロエチレンの原料として使用されています。製造量が多く環境や人健康への一定の影響(IARCの発ガン評価2B)が懸念されることから厳格な管理の下、取扱いが行われています。日本の状況は以下の通りです。

《IARC発ガン評価》

1:人に対して発ガンを示す物質

2:人に対して発ガン性を示す可能性のある物質

  2A:可能性の高い物質
  2B:可能性の低い物質

(1)一般環境

①大気

 1996年に大気汚染防止法の有害大気汚染物質に指定されたことを受け、日本の塩ビ業界はクロロエチレンの排出削減と同時に1,2-ジクロロエタンの排出削減に取り組んできました。その後、管理の目安とされる大気環境指針値1.6㎍/㎥以下(年平均値)が設定されました。

 また、化管法(PRTR)第一種指定化学物質に指定されており、毎年、環境への排出量の届け出が行われていますが、塩ビ製造各社からの一般環境への排出量は年々減少しており、大気環境指針値を超過する地点はほとんどありません。

 詳しくはこちらをご覧下さい。

 2011年、化審法の「優先評価化学物質」に指定され、今後、リスク評価が行われる予定です。

②水質

 水質汚濁防止法の有害物質として環境基準(人の健康の保護に関する健康基準) 0.004㎎/L以下(年平均値)が設けられています。環境省のモニタリング調査によると公共用水域(河川/海域/湖沼)、地下水とも環境基準を超過する地点はほとんどありません。

③土壌

 土壌汚染対策法の第一種特定有害物質に指定されており、土壌環境基準0.004㎎/L以下が設定されていますが環境基準を超過する地点はほとんどありません。

(2)労働環境

 1,2ジクロロエタンの製造は製造工程の厳重な管理の下で行われています。作業環境は労働安全衛生法の作業環境評価基準(管理濃度10ppm以下)に基づき管理が行われています。

2.クロロエチレン(塩化ビニルモノマー/VCM)

 1974年、アメリカで塩ビ製造に長年従事した労働者にガンの一種である肝血管肉腫(Angiosarcoma of the Liver.ASL)の発症例が報告されました。その後の疫学調査の結果、塩化ビニル樹脂の中間原料であるクロロエチレンを高濃度に長期間ばく露した労働者に発症の可能性がある特殊なガンであることがわかりました。

 これによりクロロエチレンは「発ガン物質」(IARCの発ガン評価1)として位置づけられ、多くの法律により厳格な管理の下、取扱いが行われています。日本の状況は以下の通りです。

(1)一般環境

①大気

 日本の塩ビ業界は1970年台後半から労働環境の改善や塩ビ樹脂、製品中の残留モノマー削減に取り組むとともに一般環境への影響の未然防止の観点から自主的に排出削減に取り組んできました。1996年に大気汚染防止法の有害大気汚染物質に指定され、その後、管理の目安とされる大気環境指針値10㎍/㎥以下(年平均値)が設定されました。
 また、化管法(PRTR)特定第一種指定化学物質(発ガン)に指定されており、毎年、環境への排出量の届け出が行われていますが、塩ビ製造各社からの一般環境への排出量は年々減少しており、大気環境指針値を超過する地点はありません。詳しくはこちらをご覧ください。
 2011年、化審法の「優先評価化学物質」に指定されましたが、2015年、リスク評価の結果「一般化学物質」に変更(リスクの懸念小)となっています。

②水質

 水質汚濁防止法の要監視項目として指針値0.002㎎/L以下(年平均値)が設けられています。環境省のモニタリング調査によると公共用水域(河川/海域/湖沼)で指針値を超過する地点はありませんが、唯一、地下水で指針値を超過する地点があることから、2009年、有害物質に指定され地下水環境基準0.002㎎/L以下(年平均値)が設けられました(公共用水域は要監視項目を継続)。これは、塩ビ製造事業所からの排出に起因するものではなく、過去に地中に浸透した他の有機塩素化合物が微生物の働きにより分解生成したものと考えられています。クロロエチレンの地下水環境基準設定についてはこちらをご覧下さい。

③土壌

 2009年、地下水環境基準が設定されたことを受け、2016年、土壌汚染対策法の第一種特定有害物質に指定され、土壌環境基準0.002㎎/L以下が設定されました。
 土壌中で検出されるクロロエチレンは地下水と同様、塩ビ製造事業所からの排出に起因するものではなく、過去に地中に浸透した他の有機塩素化合物が微生物の働きにより分解生成したものと考えられています。

(2)塩ビ樹脂、塩ビ製品

 塩ビ樹脂や塩ビ製品の製造工程では加熱プロセスを経るため、沸点の低いクロロエチレンが塩ビ樹脂中や塩ビ製品中に未反応のまま残留(モノマー)することはほとんどありませんが、塩ビ樹脂中のクロロエチレンに関しては10ppm以下、食品容器や医療器材に関しては以下の規格が決められています。

《食品容器》 食品衛生法規格基準:材質中の塩ビモノマーの許容濃度 1ppm以下

《医療器材》 日本薬局方自主規格:材質中の塩ビモノマー許容濃度 1ppm以下

(3)労働環境

 クロロエチレンは沸点がマイナス13.4℃、引火点がマイナス78℃のガス状の危険物(高圧ガス)で、発ガン性があることから塩ビ樹脂製造各社は製造工程の厳重な管理を行うとともに工程のクローズドシステム化や重合缶清掃作業の自動化など労働環境の改善を図ってきています。
 作業環境は労働安全衛生法の作業環境評価基準(管理濃度2ppm)に基づき管理 が行われています。
 クロロエチレン(塩化ビニルモノマー)に関する詳しいことは、産総研化学物質リスク管理研究センターがまとめた
 詳細リスク評価書をご参照下さい。

3.塩ビモノマー製造施設からのダイオキシン類排出

 2001年1月のダイオキシン類対策特別措置法の施行により、焼却炉の他産業活動により発生する施設として、種々の施設が「特定施設」に指定されました。塩ビモノマー製造施設(EDC洗浄工程)もその一つで、毎年、ダイオキシンの排出量の報告が義務付けられています。塩ビモノマー製造施設からのダイオキシン類排出量の推移を表に示しました。今後も塩ビ業界ではこの削減に努力していきます。なお、ダイオキシンについてはダイオキシンの項もご覧下さい。

塩ビモノマー製造設備からのダイオキシン類排出量推移

(暦年)(単位:g-TEQ)
1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2013 2016
0.74 0.73 0.75 0.39 0.87 0.45 0.40 0.28 0.32 0.36 0.28 0.19 0.37 0.56 0.30 0.42

(2010年以降、経済産業省の推計は3年に1度となりました)
出典:環境省 ダイオキシン類の排出量の目録